夏の甲子園大会はアメリカでも注目されている。
 正確にいえば、愛媛・済美高校の安楽智大のピッチングが、それぞれの立場、視線で。とりわけ注目しているのは、米スポーツメディア「ESPN」か。彼らは5月終わりから6月頭にかけて来日して安楽を取材した。
 その時の取材は雑誌とテレビの合同で行なわれ、当初の着地点は高校生の投手が危険に晒されているという問題提起だったはずだが、通訳/コーディネーターとして取材に携わっているうちに、彼らの意識が変わっていくのが分かった。

 春の甲子園で安楽が772球を投げると、米主要スポーツメディアはこぞって批判。そんな中で「ESPN」は、背景を知りたがった。行き着くところ当然、甲子園となるわけだが、そこまで掘り下げていく中で、別のものが見えてきたよう。
 彼らが甲子園での連投、あるいは練習での投げ込みをどう理解したのか。加えて、安楽はどう自分の言葉で春の甲子園、そして連投を語るのか。決勝で安楽をマウンドに送り出した上甲正典監督は、同じ決断を、同じ状況で下すのか――。いずれも興味深い取材となった。

 6月3日、取材陣は松山市の中心部にある済美高校から車で20分程度のところにある専用グラウンドを訪れた。
 前日の雨で出来た水溜りに砂を被せたり、水を逃がしたりしていた選手は、我々が姿を見せると、「こんにちは!」と帽子をとって頭を下げた。移動の時、選手は駆け足。そのきびきびとした動きにまず、米国人記者らは圧倒されていた。

 安楽はその時、マウンドをならしていた。皮のジャンパーを着て。
 夏らしい日差しがフィールドを照らす中、額に汗が滲む。取材前、段取りを説明しながら、「暑くない?」と聞けば、「暑いです」と苦笑。「どうして着ているの?」という問いには、こう答えている。「甲子園での暑さ対策です」。
 見据えているものが違う。彼の中ではもう、暑さの中、夏の甲子園のマウンドで投げているイメージが出来ている。そして、自分がそこでどんな投球をすればいいかも理解できていた。

 安楽、上甲監督の順で行なわれたインタビュー。安楽は皮のジャンパーを着たまま三塁側のダグアウトの中に置かれた椅子に腰を下ろすと、まず、甲子園で何を学んだかと聞かれ、「自分の限界が分かりました」と話した。
 「そして、自分に何が足りないかも」
 何が足りなかったのか? という質問は課題に置き換えている。
 「球数を減らすことです」
 1試合の球数を減らせば、疲れも最低限に抑えられる。ひいては故障も防げるのでは。安楽は春の甲子園の後、制球力の向上に取り組んだ。実際、それが出来てしまうのが、彼の非凡なところ。

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