平積みに置かれる「進撃の巨人」最新刊

 諫山創のデビュー作で2009年に連載がスタートした『進撃の巨人』(講談社)。これまでに単行本の発行部数は2300万部を超えるなど、若者を中心に高い支持を得ています。8月9日には待望の第11巻が発売され、さらに話題を呼んでいます。人を襲う巨大生物「巨人」におびえながらも立ち向かう若者たち、また謎に包まれた背景を描いた作品は、連載スタートと同時に人気を集め、マンガだけでなく、テレビアニメやライトノベル、ゲームとその枠を超え、実写版による映画化も計画されています。少年マンガにも関わらず、腐女子と呼ばれる“オタク系”の女性にも絶大な人気があり、同人ショップには、二次創作された作品がずらりとならぶ「進撃」コーナーまでが設置されています。なぜ、この作品に魅かれるのでしょうか。

 三菱リサーチ&コンサルティングで芸術・文化政策センター長を務める太下義之氏は、以下のように分析します。「この作品は、良質な推理小説のように謎が解明されないままに、新しい謎が提示される。いわば『謎が謎を呼ぶ』、『先の読めない』という展開が魅力の1つです」。

 太下氏の言う『謎が謎を呼ぶ』という点は、かつて海外ドラマで人気を博した『ロスト』などにも近いものがあるかもしれません。ストーリーの中に敷かれているさまざまな伏線を1つ1つが消化しつつも、謎が謎を呼んで、また紐解かれていく手法は、『ロスト』でも取り入れられ、熱狂的なファンを生み出しました。

 次に、メタ・フィクショナルな構造も指摘します。「『現時点で開示できる情報』というタイトルが象徴するように、読者が作者の存在を意識する構造となっている」と太下氏。メタ・フィクションとは、作り話であること、また作者自身の存在を読者に意識付けする手法です。これによって前述の『謎』は、作者によって仕掛けられたもの、ということを意識させられ、それが1つの面白さとなっています。

 さらに、「原作における、戦闘が日常となった世界での限定的な物語を展開しているので、逆説的に『もしも○○だったら』という空想を当てはめることに魅力を感じ、二次創作でも高い人気を得ているのでは」と分析します。

 従来、日本文化には「人間をはるかに超えた未知の生物が人間に災いをもたらす」という“怪獣マンガ”が得意であり、『ゴジラ』をはじめ、これまでさまざまな作品がありました。しかし、怪獣ものは、単に目の前の敵を倒せば、一件落着するのが一般的でしたが、『進撃の巨人』は、目の前の敵を倒しても、本質がなにも解決できない、という状況があります。そういう意味では、90年代に人気だった『寄生獣』(作者:岩明均)にも似ている、と言えるでしょう。

 太下氏はまた、「物語の意味論としては、『ザ・ワールド・イズ・マイン』(作者:新井英樹)、絵がうまくはないがリアルで不気味、かつグロテスクという意味では『生物都市』(作者:諸星大二郎)にも似ているのでは」、と分析。 謎に包まれたストーリーや圧倒的な絶望感など、作品に引き込まれる理由は尽きませんが、かつて“異端”とされた作品のおもしろさを、散見できる部分も、「進撃の巨人」の魅力かもしれません。


太下義之(おおした・よしゆき)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 芸術・文化政策センター長。
文化経済学会<日本>理事。文化政策学会理事。文化審議会文化政策部会委員、東京芸術文化評議会専門委員。大阪府・大阪市特別参与、沖縄文化活性化・創造発信支援事業評議員、鶴岡市食文化創造都市アドバイザー、公益社団法人企業メセナ協議会監事。文化情報の整備と活用100人委員会委員。著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム発起人など。