無観客ゆえのJ初ゴール

 いつもは、5万人以上のサポーターが発する大歓声でかき消されてきた様々な「音」が、メインスタンド5階の記者席にまで無機質に響いてくる。メインスタンド下のロビーで、入場前に選手たちが心をひとつにして爆発させる雄叫び。味方同士の掛け声やレフェリーへのアピール。ゴールが決まった直後の歓声も、無人のスタンドにこだまする。

 Jリーグのオフィシャルスポンサーを含めた企業の看板は、ひとつも設置されていない。双方のゴール裏には、浦和レッズが2009年から推進してきた人種差別撲滅プロジェクト『SPORTS FOR PEACE!』の看板が置かれている。

 3月8日に行われたサガン鳥栖戦でレッズの一部サポーターが人種差別的な横断幕を掲げたことを受けて、制裁措置として行われることが決まったJリーグ史上初の無観客試合。選手入場の際のアンサムも何もなく、静寂に包まれながら定刻の午後3時にピッチへ足を踏み入れたレッズのDF槙野智章は、違和感を禁じ得なかった。

 「いつもはエスコートキッズと手をつないでピッチに入り、正面、右、左、後ろにおじぎをするんですけど、今日は正面上の席にメディアの皆さんしかいない。表現は悪いかもしれないけど、練習試合という雰囲気は最初にありました」

 集中力が途切れそうになるたびに、必死に保つ作業を強いられた中で迎えた前半19分。警戒していた相手のセットプレーの際に、一瞬の隙が生じてしまう。左からのショートコーナー。クロスをあげた清水エスパルスのFW大前元紀、そしてファーサイドでボールを待つMF六平光成のマークも甘くなってしまう。六平のシュートはGK西川周作が何とか弾いたが、こぼれ球をFW長沢駿に右足で押し込まれた。

 プロ8年目で待望のJ1 初ゴールを決めた、25歳の191cmの長身ストライカーが笑顔を浮かべる。
 「確かに公式戦の雰囲気はなかったけど、僕は埼玉スタジアムでプレーするのが初めてだったので、無観客で行われて逆に緊張しなかったかな。味方にかけた声が相手にもすぐ聞こえてしまうので、うまくプレーするのが大変でした。浦和の選手たちも、試合中に同じことを話していましたけど」