[画像]年収は「住むところ」で決まる

 『年収は「住むところ」で決まる』という本がちょっとした話題になっています。米国ではイノベーション産業の有無で都市の優劣が決まるようになり、成長する都市の高卒者と衰退する都市の大卒者における年収逆転現象が起きているという話です。

 この本は米国経済学者モレッティ氏が書いたものです。モレッティ氏は、イノベーションをもたらすような職種の仕事(たとえば先進的ネット企業のエンジニアなど)が1件増えると、その地域のサービス業で5件の雇用が増えると主張しています。具体的にはヨガのインストラクターなどが引き合いに出されています。

 これまで地域を発展させるためには、工場を誘致して大量の労働者の職を確保することが重要とされてきました。しかし、これからはイノベーションを引き起こす企業を集積させる方が経済の活性化には重要ということになります。イノベーションが活発な街では経済も活性化し、結果として冒頭で書いたような逆転現象が起こるというわけです。

 逆転現象がどの程度起きているのかはともかくとして、米国では州によって年収が大きく異なっているのは事実です。シリコンバレーを擁するカリフォルニア州や、アマゾン、マイクロソフトといったハイテク企業が本社を構えるワシントン州の平均年収は5万ドルを超えていますが、南部のミシシッピ州では3万6000ドルしかありません。ここまで地域で差があるということになると、衰退する街と発展する町の大卒者と高卒者の年収が逆転していても何ら不思議ではありません。

 人を呼び込むという意味では、従来の製造業でもイノベーション企業でも状況は同じように思えますが、両者にはどんな違いがあるのでしょうか?それはイノベーションが人との交流で生み出されるという事実に大きく関係しているようです。

 シリコンバレーに拠点を構えるベンチャーキャピタル(ベンチャー企業を発掘し投資をする会社)の多くは、投資先の選定についてあるルールを持っているといわれています。それは「車で30分以上かかる場所にある会社には投資しない」というものです。画期的なアイデアを事業化するには、顔を合わせられる距離にいないとダメだというのです。これは、イノベーションが何から生まれてくるのかということをよく表した逸話といってよいでしょう。

 「年収が住むとところで決まる」という表現には、本書の販売戦略を考慮した多少の誇張があるのかもしれません。しかし本書で指摘されていることは、日本の地域振興策においても重要な視点と考えられます。単に工場を誘致したり、ハコモノを設置するだけでは十分な経済効果を上げられなくなっているのです。

 すべての地域が、立派なハイテク企業を誘致できるわけではないでしょう。しかし、イノベーションを起こす人材は何もハイテク企業だけにいるわけではありません。ユニークな人物を集めるためのちょっとしたアイデアがあるだけで、状況はずいぶん違ってくるはずです。発想の転換が必要であることを本書は示しています。

(大和田 崇/The Capital Tribune Japan編集長)