五輪を3連覇し、12年ものあいだ慣れ親しんできた55kg級から初めて53kg級に変更するため、吉田沙保里は高校生のとき以来の減量をした。今年から施行された新階級制度でも55kg級は存在している。しかし五輪で実施されないと決まったからだ。

「ちょっと我慢しただけで」体重を落として計量をパスし、出場した6月15日の明治杯全日本選抜レスリング大会53kg級には10人が出場していたが、高校生や大学生が多く対戦したことがない選手ばかりだった。そして、いざマットに上がり、相手と組み合って腕をとった瞬間に吉田は

「細い! かわいそう!」

と思ってしまった。

このふだんと違う感覚は吉田に異変をもたらした。戦った全3試合のうち2試合で失点し、準決勝では試合開始早々に先制され、リードされる時間もあった。10年前にアテネ五輪代表決定戦で山本聖子を退けて以来、常に圧倒的な差を見せつけ勝ち続けてきた吉田に、久しぶりに訪れた変化は「かわいそう」がきっかけだった。

吉田はふだんから、甥っ子や姪っ子たちだけでなく、どんな子どもたちの面倒見もよい。小さい子どもたちとマットの上でレスリング遊びとでもいうような、ときにはアクロバティックに見えるじゃれ合いをよくやっている。試合で取った相手の腕が予想以上に細いと感じた瞬間、自分が力を加減しながらマットでじゃれる子どもたちの顔が思い浮かんでしまったのかもしれない。

もちろん、技術的な問題も存在している。優勝したあとに「腰が高くなった自分のミス」を失点の理由として吉田は挙げていた。

「これまで戦ってきた55kg級よりも対戦相手が軽いぶん、動きも速かったです。失点は腰が高くなるなどした自分のミスが原因。反省点を次へ生かして、速い動きの選手ともっと練習してスピードを見直していきたい。リオ五輪まで連勝記録を続けていきたいですから」

いつものように、からりと明るい口調で連勝、連覇をしたいと告げた吉田に不安材料はなさそうだ。

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