[写真]急速に自動車の普及が進む中国(ロイター/アフロ)

先週、エコタイヤはエコ性能とウェットグリップがトレードオフだという話を書いた。自動車は社会と密接につながっている製品なので、世の中の動きで商品特性が変ってしまうことが多い。環境を求められれば環境に特化する。何かに特化して何かが失われることは実は少なくないのだ。

例えばミシュランタイヤの話だ。ミシュランは過去に数々の優れたタイヤを数多く輩出し、ドライバーの信頼を勝ち取って来たメーカー。今でも優れたタイヤをリリースしている。ところが残念ながらミシュランの素晴らしいタイヤの一部は日本で入手が難しい。後述するが、その理由はアジアの中での日本の地位と密接にリンクしているのだ。

名品タイヤ「MXV」の変遷

その昔、ミシュランにはMXVという名品タイヤがあった。「特にスポーツ志向ではなく、普通にクルマを使いたいだけなんだけど」という人には迷いなく勧められるオールマイティなタイヤだった。少々値は張るが、グリップも悪くないしウェットもめっぽう強い。癖が無く長寿命で乗り心地も良い。当時タイヤに詳しい連中の間では「困ったらMXV」と言われるほど信頼され、タイヤの性能の高バランスとはこういうものだというひとつの解を指し示すような素晴らしい製品だった。

MXVはその後、MXV2、MXV3とモデルチェンジし、MXV3と並行して、北米マーケット向けのMXV4というオールシーズンタイヤを追加した。オールシーズンタイヤとは灼熱から雪路までバリエーションに富んだ北米の道のどこでも走れるように、雪と未舗装路など悪路への対応をしたタイヤだ。条件の良い舗装道路性能だけで比べれば従来のMXVシリーズより多少見劣りしたのは確かだが、それはそれで北米マーケット向けの商品として、悪路性能とその他の性能を簡単にトレードオフしないよう頑張った製品として納得できた。

しかし、名品MXV3の後継として、2005年に登場したMXV8に落胆させられることになった。ミシュランの試乗会で、試乗をする前に何故5~7の番号が飛んだのかを訪ねてみたが、どうも埒が明かない。最後は「何か書いてはいけない理由があるなら書かないから教えて欲しい」と言うと、担当者は「いやそういうわけじゃないんですが……」と歯切れが悪い。それから聞き出した話はこうだった。いまや中国のマーケットは無視できない。そして中国人は末広がりの八という数字が大好きだ。だから番号を飛ばしてMXV8にしたのだ。

正直な話、その時はその説明を信じていなかった。そこまでしてホントのことを言いたくないならしかたないと質問を打ち切ったのだ。ところが、実際にMXV8に試乗してみて驚いた。ハイバランスの鏡であったMXVが見る影もなく変わっていたのだ。

乗り心地や微振動の遮断は素晴らしい。これは従来のMXVシリーズの性能を凌いでいた。ところがハンドリングはボヤっとしているし、グリップもMXVの水準を考えるとまるで足りない。それは悪路対策タイヤMXV4の比では無い。もはや見事な妥協点を見つけるバランス追及が信条だったMXVでは無くなって、ただのオトシン(騒音と振動)スペシャルになったように思えた。尊敬を持っていたプロダクツだけにその落胆は大きかった。

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