九州大学医学部の歴史的資料を展示する施設のオープンをめぐってちょっとした議論になっています。太平洋戦争中、捕虜となっていた米軍の軍人8名に人体実験を行い、全員を死亡させたという「九大生体解剖事件」に関する展示が予定されていることがその理由です。この事件は、戦争にまつわるタブーのひとつといわれていたものなのですが、いったいどのような事件だったのでしょうか。

 この事件は、太平洋戦争末期の1945年の5月から6月にかけて、墜落して捕虜となった米軍の爆撃機B-29の搭乗員8名に対し、軍主導で人体実験を行い、全員を死亡させたというものです。当初、軍部は事件を隠蔽しようとしましたが、結局発覚してしまい、最終的には戦後に開かれた軍事法廷で関係者に有罪の判決が下されました。

 作家・遠藤周作氏の代表作のひとつである「海と毒薬」は、この事件を題材にしているといわれています。キリスト教のような明確な宗教観を持たない日本人の罪に対する意識を取り上げた作品として、当時は大変な話題となりました。もっとも、実際の事件と小説はだいぶ異なっており、あくまでモチーフになっているにすぎません。

 九州大学は大学として組織的に事件に関与したわけではありませんが、執刀は九州大学医学部の教授らが担当していたことから、同大学関係者にとっては汚点となっています。この歴史館は九州大学医学部の同窓会が主体となって建設を進めてきたもので、9月27日に落成式が行われました。開館は来年4月の予定となっており、展示品の中には同事件に関係するものが含まれる予定です。

 戦争と医学に関する負の歴史として積極的に展示すべきという声がある一方、タブーとなっている事件をわざわざ取り上げることについて抵抗を感じる人もいるようです。

 大学医学部の展示については、京都大学医学部の資料館において、旧陸軍731部隊に関する展示が撤去されたとの報道が今年5月にありました。731部隊とは、関東軍(旧日本陸軍における旧満州を拠点とする軍)防疫給水部の別称で、細菌兵器や化学兵器を開発し、中国人に対する人体実験を行っていたといわれる組織です。撤去に関する真偽のほどは必ずしも明確ではないのですが、こうしたことが話題になっているということは、旧日本軍による非人道的活動をめぐって、今でもその取り扱いについて、世論が大きく割れていることを示しているといえそうです。

(The Capital Tribune Japan)

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