「負ける」状況が考えにくい計算

 それでも首相が解散に突っ走るのはなぜか。一つは素朴に「やってみたい」というのがあるでしょう。首相最大の権力は解散権ですから。また「負ける」という状況が考えにくいとの計算もあるはずです。2012年総選挙で出の自民党の獲得議席は294。明らかな勝ちすぎであり、誰がどう解散しても次は減らします。一割減で約30減らしても連立与党の公明党が現状維持(31)であれば300議席近くを得られ、絶対安定多数を大きく上回ります。倍の60減らしても安定多数はクリア。野党が健在であれば与党の「勝敗ライン」は最低過半数で安定多数となればたいてい勝利を宣言できます。

 内閣を改造してから2人の国務大臣が「政治とカネ」で辞任して以降、バラバラで存在感のなかった野党も勢いづいてきました。他の国務大臣にもさまざまな疑惑がささやかれ、徹底追及される状況下です。この結果「辞任ドミノ」に陥れば政権の体力を失い解散する体力を失っていきます。それも避けたいのでしょう。

 12年総選挙で政権を握っていた民主党をボロ負けに追い込み、日本維新の会やみんなの党といった他野党もその後人気が低迷しています。民主党が現段階で候補者擁立が確実なのは300小選挙区のうち半分程度。「野党の選挙準備が整わないうちに選挙をすればそこそこの負けで止まる」との読みもあるはずです。

選挙区によっては「政治とカネ」

 ただし選挙はやってみないとわかりません。自民党の重鎮だった川島正次郎元幹事長が残した「政界は一寸先は闇」の名言は今も光り輝いています。野党の選挙準備が整っていないのが必ずしも自民有利に働くとも限りません。前回選挙で落選した元議員はこの日に備えて地をはうような努力で手ぐすねを引いていますし、対する自民党現職の多くは1年生。つまりたった2年しか実績がありません。どの野党(共産党を除く)も候補がいない空白区があれば「時間もないからこの人で行こう」とエイヤッと決まる可能性があります。空白といっても国会議員になりたい人がいないわけではないですから。小選挙区なので市長村議会議員や都道府県議会議員でも「そこ」だけには一定の地盤と知名度があるはずです。「選挙協力」は無理でも「候補者調整」ならば政策が異なった政党同士でできるのです。

 前述の通り10%先送りは争点になりようがありません。あるとすれば「アベノミクスの是非」「8%引き上げの是非」あたりと予測されます。選挙区によっては「政治とカネ」で野党は責め立てるでしょう。


■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て現在、早稲田塾論文科講師、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など。【早稲田塾公式サイト】