30年前、日本のファミリーカーは圧倒的にセダン全盛だった。郊外のマイホームと駐車場のコロナ、ブルーバード、アコードといったDセグメントセダンは「日本の幸せな家庭」の勝利の方程式だったのだ。しかしながら今、Dセグメントセダンに昔日の勢いはない。

2010年代の無視できない量販車種

[画像]日本におけるミニバンブームの火付け役は1995年に登場した初代ホンダ・ステップWGN。面を極力垂直に立て、スクエアな空間を実現するとともに、溶接ラインを巧みにプラスチックカバーで覆うことでコストダウンを果たした野心的デザインだった。その無印良品的な清潔感と新鮮さでヒットを記録した

 代わってファミリーカーの地位にあるのは5ナンバーサイズの3列シートを持つミニバンだ。ノアとセレナが各10万台弱、ステップワゴンが6万台強。軽自動車を除く新車の年間販売台数は300万台強なので、その1割近くが5ナンバーミニバンということになる。

 しかしそれだけ売れているミニバンは、誰もが憧れる人気の花形車種 ── ということには残念ながらなっていない。賛否両論が渦巻く面倒な状況になっているのだ。クルマ好きだったら、2010年代の日本車として無視しえない大きな割合を持つこのミニバンについて何がどうなっているかは押さえておくべきだろう。

 ミニバンのメリットは何よりその室内空間の広さと座席数の多さだ。夫婦と子どもに加え、おじいちゃんおばあちゃんも一緒に乗れるし、子どものおむつ交換だってやり易い。ホームセンターで家具を買っても、家電量販店で大物家電を買ってもセダンでは積めなかったものが積める。

 広告を見れば「親と子」をテーマに「家族と休日を楽しむかっこいいパパのクルマ」のイメージもあるし、若い人なら友達大勢でわいわいと移動できるのも楽しいだろう。「別にスポーツカーみたいな運転しないし」となれば、室内が広いことは大きなメリットだ。

“悪夢”の様なボディの設計要件

[画像]ステップWGNを狙い撃ちして王座を勝ち取り、そのまま王座に座り続けたノアだが、伏兵ニッサン・セレナが突如トップに躍り出た。このクラスにハイブリッドを持ちこんだ意味は大きい

 なのに、何故ミニバンは賛否両論なのか? それについて自動車評論家の沢村慎太朗氏は、著書『午前零時の自動車評論8』(文踊社刊)の中で鋭い分析を見せている。

 まず5ナンバーミニバンは、機械として設計要件のハードルがとても高く多方面に及んでいる。ミニバンに必須の大型スライドドア(いまや両側だったりする)と開口面積の大きいテールゲートはボディ剛性にとって大変厳しい。ガムテープでちゃんと止めてない段ボール箱の様になよなよしてしまうのだ。それが解っていても開口部を小さくするとショールームで比べられた段階でライバルに負ける。「走ってみたらしっかりしてた」までたどりつけないのである。

 ならばセンタートンネルをがっちり作って剛性を稼ごう …… というわけにも行かない。ウォークスルーが売りのミニバンでは、床はあくまでもフラットであることが求められる。出っ張りがあっちゃダメなのだ。

 だったらドアの敷居をがっちり作って …… と思っても、敷居は床とツライチじゃないと乗り降りが大変になってしまう。テールゲートも敷居付きはNG。荷物の出し入れがしにくいからだ。

 ならばと、床の厚さを増やして構造を強化するのも具合が悪い。床が高くなって乗り降りが大変だし、床の厚み分車内空間が狭くなるか、車高が上がるかの二択になってしまう。むしろ昨今は「フラットで低床」方向にどんどん加速しているのだ。

 あれもダメ、これもダメで、設計をする人はさぞかし「どうしろって言うんだ」と思っているに違いない。

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