さて、2014年はテレビにとって大きな分岐点になりました。これまでのテレビの歴史の中でもかつてない激震が走った年だったと思います。

【連載】2014年のテレビを振り返る

NHKに走った“激震” 籾井会長

[写真]今年1月、NHK会長に就任した籾井勝人氏(ロイター/アフロ 2014年2月20日撮影)

 何といっても最大の影響は公共放送を担うNHKのトップに「籾井勝人氏」が就いたことです。会長あるいは次期会長としての初期の頃に会見などで語った内容を振り返ると、およそ「報道の自由に無理解」で、歴史観や国際感覚においても報道機関トップとしての見識や品性を欠いた「かなり極端な人物」だと言わざるをえません。
 個人でどんな歴史観などを持つかは自由ですが、それを公の場で発言したという点でこれまでの会長時代にはなかったことでした。これは籾井会長までの歴代会長の発言と比べてみても明らかです。例を挙げれば、「政府が右と言っているものを左とは言えない」という報道機関として「報道の自由」や「編集の自由」を放棄したかのような発言をしました。
  従軍慰安婦問題についても「どこの国だってあったのではないか」と言って、ドイツ、フランスなどの名前を挙げる、オランダの売春街である「飾り窓」に言及する、あるいは韓国に対して「国際的に解決している。それをなぜ蒸し返すのか」などと外交問題に発展しかねない不用意な発言を繰り返しました。

 この人の強みは「我関せず」という点だと思います。国会でいくら追及されようが、OB職員がこぞって「辞任要求」を出そうがけっして辞めません。そういう意味では並みの神経のトップであればとっくに辞めているのでは?と思われる状況でも「公式の場で個人的な見解を述べたことは不適当、不適切だった」という通り一遍の謝罪の言葉だけで苦境を切り抜けたのは強者だと言わざるをえません。

籾井会長の下、ニュースは「変化」したのか?

 さて、会長就任前に「NHKに限らず、テレビの報道はおかしい」(週刊文春でのコメント)と公言していた籾井さんが会長のイスに座ったことでNHKの姿勢はどう影響を受けたのでしょうか?

 結論的に言うと、表面上には大きな変化はありません。ただ、ニュース番組においては経営委員に安倍首相に近い人たちが増えた前年あたりから目立つようになっていた「安倍政権への気づかい」が露骨なニュースがますます目につくようになっています。
 「ニュースウォッチ9」では安倍首相の演説やインタビューが毎日と言っていいほど、かなり長く登場するようになりました。また1月に元海上幕僚長の田母神俊雄さんがツイッターでかみついたようにニュース番組などで冒頭からスポーツネタを10分以上やるとかの「娯楽・スポーツネタ重視」の傾向や、その他のネタは安倍さんが登場するものを長めに放送するなど「安倍さんへの気づかい」の傾向です。「おはよう日本」でも「ニュースウォッチ9」でも徐々にではありますが、放送が次第に変化していると感じます。

 ただ、NHKの人たちに聞く限り、それは露骨な形での指示が上から降りてくる、という形ではないようです。むしろ、内部の人たちが「これは今の情勢であればここまでやってはいけないだろう」「こうした姿勢が望ましいだろう」と「察する」形で進んでいるようです。つまり、トップ以下の意向を「察する」形で、下の職員たちが「先取り」して放送に反映させる、という流れができているというのです。もともと官僚的な組織ですし、職員はそれぞれ出世欲もありますから、頭の良い職員や幹部ほど「察する」ことで上の意向を先取りする報道姿勢になっていく。それが現在、NHKの内部で起きていることだと言って良いでしょう。

 そうしたなかで、NHKの制作者や記者たちはすごくがんばっていると感じます。今年放送された番組についていえば、NHKは「NHKスペシャル」を中心に特筆すべき優れたドキュメンタリー作品を次々に生み出しています。
 超高齢化社会にあって、認知症の徘徊老人、高齢者の貧困、危険ドラッグ、原発事故の対応についての検証、現代という時代の歴史的な検証、死との向き合い方など、ダウン症の障がい者の立場で出生前診断について切り取った番組など、ぱっと思い浮かぶだけでも数多くの優れた番組がありました。安倍政権下で着々と進む「武器輸出」について長時間ドキュメンタリーという形できっちり現状と今後の問題点について報道したのは「NHKスペシャル」だけでした。連続テレビ小説「ごちそうさん」を始めとした娯楽番組でも突出した制作力を見せつけました。

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