#01 「交差点の少女の瞳」

インドの都市部では、物乞いに詰め寄られることなど日常茶飯事。そんなことにもすでに免疫のついた僕は、悲しいかな罪悪感など感じることなく彼らを無視することができるようになってしまった。それでも時々、ぎゅうと胸を締め付けられるような光景に出会うこともある。
一人の女の子が交差点で停まったタクシーの窓にべったりと張り付いてきた。普段見かけるような、窓をたたいたり、手を車内に突っ込んでくるうっとうしい物乞いとは違って、この子は何もいわずにじっと僕を見つめるだけ。何ともたとえ難い寂しげなその瞳に、僕は思わず魅せられた。向けたカメラから逃げるでもなく、微笑むわけでもなく、彼女は表情を変えずにただレンズを見つめ返してくる。数秒のあいだ、僕らはファインダー越しに視線を合わせながら、短い時を共有した。やがて信号が青に変わり、タクシーが動き出すと彼女の姿は後方に滑り去っていった。幾ばくかの小銭さえわたすことをしなかった僕の心が、ざわざわと波だった。
(2009年11月)

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