[画像]ホンダのフラッグシップモデル、NSXのType Rは1200万円という高額な車両価格も話題になった。しかしポルシェ911と比較対象になるレベルのスポーツカーという内容に対しては決して高いものではなかった。2005年に惜しまれつつ生産中止になった

 「Type R」は良く言えばホンダのレーシングスピリットを代表するクルマだ。その本質はスポーツというよりレーシングに近い。モデルによって多少差があるとは言え、アシはがっちりと固められ、そのセッティングはダンパーの暖機をして適正になる水準まで煮詰められている。流石にF-1で戦ってきたホンダだけあって、そのレベルは極めて高く、尊敬に値するものだった。

 しかし、と書かねばならないのが残念だが、ホンダはスポーツカーとレーシングカーの違いがわからなくなっているか、あるいは作り手が意図的に無視しているのではないかと思う時がある。技術の高さと製品の実現力こそ素晴らしいが、そもそものリファレンス(基準)が間違っているのではないかという疑念が消えない。

【画像】(上) 排ガス規制後の日本で新時代切り開いた高性能エンジン

スポーツカーの適切なアシの硬さは

[画像]ホンダのHマークを赤地にあしらうType Rのエンブレム。’90年代以降のホンダスポーツの象徴的エンブレムだ

 例えば、スポーツカーのサスペンションの硬さはどうあるべきかという話がある。ちょっと遠回りに聞こえるかも知れないがタイヤのグリップの話を説明しよう。タイヤのグリップは前後方向と左右方向の総和に対して足りているか足りていないかが問題だ。タイヤのグリップ力を100とした時、ブレーキに80使えば、曲げる力に使えるのは20だ。20以上の曲げ力がないとガードレールにぶつかるとするならば、それは避けようがない。総和が足りていないとはそういう意味だ。

[画像]一般的にType Rのイメージと言えばこの通称「インテR」だろう。DC2とも呼ばれる。細かいモデルチェンジで少しずつ仕様が異なるところも魅力の一つなのかもしれない

 もう少し現実に近づけよう。90の力を使って曲がっている時、そこから緊急的なブレーキに使えるのは10しかない。ただし、その10のブレーキによって速度が落ちれば、曲がるために90は要らなくなる。70になれば30はブレーキに回せる。あるいは落ちた速度で90の曲げ力をつかえればクルマは速度が減って遠心力が衰えた分もっと曲がる。旋回中のブレーキに関しては速度が落ちるほど止まるも曲がるのも加速度的にラクになっていくのだ。速度管理はそれだけ重要という話でもある。

 でもどうせなら最初にグリップが100じゃなくて120とか150あればいいのに。そう思うから多くの人はハイグリップタイヤに惹かれるわけだ。ところがタイヤのグリップを増やす方法は何もタイヤをアップグレードするだけではない。

 タイヤのグリップ総量は垂直荷重に比例する物理特性がある。静止状態で4つのタイヤに250キロずつの重さが掛っているクルマがあるとする。速度を上げて走って来てブレーキをかけると、クルマは当然前のめりになる。この時、例えば前輪は300キロずつ、後輪は200キロずつというようにタイヤに掛る荷重が変わる。荷重依存特性はタイヤや路面や速度にもよるので一概には言えないが、この時、前輪のタイヤのグリップ総量は、単純に比率で言えば300/250で2割増しの120になるのだ。これに遠心力が加わってくるとコーナー外側の前輪は本当にグリップレベルを150に上げることができるようになる。