宇宙の起源に迫る「原始重力波」の痕跡を確認した──。昨年3月、好奇心をくすぐる大ニュースが世間を揺るがしました。しかし、10カ月後の1月末、欧州宇宙機関(ESA)などの国際チームが「決定的な証拠は見つからなかった」と結論づけました。原始重力波とはいったい何なのでしょうか。なぜ誤りだと判断したのでしょうか。

原始重力波ってなに?

 「原始重力波」って響きはかっこいい!けどよく分からないですよね。なんと宇宙が誕生したときまでさかのぼったときの話なんです。宇宙は生まれてすぐに、急激に膨らんだのではないかと考えられています。どのくらい急激かというと・・・

 0.000000000000000000000000000000000001秒(0が36個)という一瞬で、
 100000000000000000000000000倍(0が26個)の大きさです!

 そして、アインシュタインが予言しました。時空が急に歪められると、時空のゆらぎが波として伝わる「重力波」が生まれると。その宇宙が誕生した瞬間に生み出された重力波を「原始重力波」と呼んでいるんです。

 この原始重力波はまだ「直接」観測することはできません。しかし、原始重力波は宇宙が誕生して38万年後の「宇宙の晴れ上がり」のときの若々しい光に、ある「痕跡」を残しました。その痕跡を観測することで、「間接的」に原始重力波を観測したというのが、昨年3月の発表の肝でした。

原始重力波が“痕跡”を残した!

 もし原始重力波を間接的にでも観測できれば、生まれてすぐの宇宙は急激に膨らんだという「インフレーション理論」の裏付けになります。そして、この理論の提唱者の一人が、自然科学研究機構の佐藤勝彦機構長。 「宇宙はどうやって誕生したのか」という問いに迫る理論の証拠の1つになるかもしれないと、盛り上がりました。

なぜ誤りだったのか?

 それでは、なぜ今回誤りだとされてしまったのでしょうか。

「痕跡らしきもの」の原因は1つじゃない!

 実は「痕跡らしきもの」を観測したのは確かなのですが、痕跡らしきものを作った原因が違うと指摘されているのです。痕跡らしきものを作る要因は、実は原始重力波だけではなく、他にも少なくとも2つあると考えられています。1つは、天体の強い重力で光が曲げられる「重力レンズ効果」によるもの。もう1つは、「銀河の塵の効果」によるものです。そして今回観測した痕跡らしきものは、「原始重力波の影響ではなく、銀河の塵の効果によりできたものではないか」と指摘されたのです。

原始重力波の探索は続く

 今回は残念ながら、誤りだと結論付けられてしまいましたが、まだまだ研究は続いています。いつの日か原始重力波の痕跡を観測したり、直接観測したりして宇宙誕生の謎に迫る日が訪れるのを、楽しみに待ちましょう!


日本科学未来館 科学コミュニケーター 福田大展(ふくだ・ひろのぶ)
1983年、福井県生まれ。東北大学大学院理学研究科で太陽電池用のシリコン結晶を作る研究に携わり、修士(物理学)を取得。中日新聞(東京新聞)記者を経て現職。