安全保障関連法案の審議が、参議院でも始まりました。「集団的自衛権」が憲法解釈の変更によって可能とされることから、徴兵制についても同じように可能になるのではないかという議論が、衆議院から引き続いて行われています。7月5日にも、民主党が安全保障関連法案への反対を説明するパンフレットで、「いつかは徴兵制?募る不安」といった見出しをつけ、直後に修正したことも話題となりました。安倍首相は、答弁の中で「徴兵制の導入はまったくあり得ない」と明言していますが、将来的に、憲法解釈の変更によって徴兵制が導入される可能性はないのでしょうか。

<集団的自衛権>中谷元氏「徴兵制は憲法上、絶対にない」

徴兵制は「意に反する苦役」が政府見解

[写真]憲法18条を根拠に「徴兵制」は明確な憲法違反であり、解釈変更の余地はないという安倍晋三首相。写真は安保法案の閣議決定後の記者会見(ロイター/アフロ)

 政府の公式見解によると、徴兵制とは「国民をして兵役に服する義務を強制的に負わせる国民皆兵制度」であるとされています。つまり、戦時だけでなく、平時においても軍隊を常設して、これに必要となる兵を国民から強制的に集めるということです。

 安倍首相は、7月13日に放送された自民党の動画チャンネル「Cafe Sta」でも、「憲法18条には『意に反する苦役』、これはダメですよということが書いてあります。そして徴兵制度の本質は、意思に反して強制的に兵士の義務を負うことです。ですから、徴兵制は明確に憲法違反なんです。これは憲法解釈で変える余地は全くありません。これははっきりと申し上げておきたいと思います」と発言しています。

 確かに、1980年の政府答弁書において、「徴兵制は平時であると有事であるとを問わず、憲法第13条、第18条などの規定の趣旨からみて許容されるものではない」との見解が述べられています。安倍首相の発言も、これを根拠としたものと考えられるでしょう。

米最高裁は「意に反する苦役ではない」

 しかし、実際には、徴兵制が憲法18条に違反すると政府が考えているかは微妙なところです。1970年に行われた答弁では、当時の内閣法制局長官は、『(憲法)18条に当たるか当たらないかというのは、私どもから言いますと確かに疑問なんです』と明確に述べています。どういうことなのでしょうか。憲法問題に詳しい伊藤建(たける)弁護士は、次のように話します。

「内閣法制局が、安倍総理のように『徴兵制は憲法18条に明確に違反する』と言わない理由は、とあるアメリカ連邦最高裁の判決にあります。アメリカ合衆国憲法修正13条は、日本国憲法18条とほぼ同じ文言なのですが、アメリカ連邦最高裁は、徴兵制は『意に反する苦役』にあたらない、と判断しているのです。修正13条は、南北戦争直後である1865年に奴隷制を廃止する目的で追加されたのだから、『意に反する苦役』とは奴隷制度に類似するものを意味し、徴兵制度はこれに当たらないというロジックです」

 このアメリカの解釈を参考にすると、憲法18条だけでは徴兵制が憲法に違反するという確信を持てないからこそ、1980年の政府答弁書では「個人の尊重」などを規定した憲法13条もあえて挙げていると考えられます。安倍首相は、この点について明確な説明はしていません。

「1980年の政府答弁書は、徴兵制は憲法13条や18条などの規定の『趣旨』に反すると述べるにすぎず、どこにも『憲法18条に明確に違反する』とは書いていません。つまり、明確に憲法違反であるとは言えないけれども、憲法13条や18条などの条文を一緒に読んで、その背後原理を推理すると、ようやく『徴兵制は憲法違反だ』といえるというわけです。そのため、『徴兵制は憲法上許されない』という政府見解は、砂上の楼閣にすぎず、いつかは解釈改憲により変更されてしまうという危険をはらんでいます」(伊藤弁護士)

 安倍内閣の一員である石破茂内閣府特命担当大臣も、「政府見解に従うことは当然」としつつも、「『兵役は苦役』のような発想が国際的には異様だ」という持論を今回の国会でも展開しています。民主党のパンフレットで懸念されていた通り、やはり法解釈の可能性という観点からは、徴兵制も「集団的自衛権」の場合と同じ問題があり得るのです。

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