「南関東警戒引き上げ」の論拠は?

 「MEGA地震予測創設以来初 南関東警戒レベルを最大に引き上げ」と週刊誌に報じられた最近の「変動」も同じです。彼らの発表文によれば「6月28日~7月4日の週に神奈川の山北、箱根、湯河原、静岡の宇佐美、伊豆諸島の三宅、八丈で4~5センチの一斉異常変動が見られた。経験則として、長い静謐後に異常が見られたら近いうちに大地震が起きる可能性が高いと考えられる」とのことです。

 このときのデータを見ると、これらの観測点で7月1日の1日だけ、数センチだけが高くなっています。この1日の値によって、この週の最高値と最低値との差が出たのです。じつは7月1日には雨が降り、その影響だった可能性が高いのです。

 実は昨年も7~8月に大きく値が上下していました。しかし、この後に大きな地震は起きませんでした。つまり、この程度のデータの変動はよくあることなので、観測誤差なのです。

 そもそもGPSによる測定では、水平方向に比べて、上下方向(高さ方向)はもともと誤差が大きいのです。

 また、国土地理院はノイズをできるだけ小さくしようと、近隣の観測点のデータを補正したものを発表しています。このため、一つの観測点で「異常」があると、連動して周辺の観測点にも同じ日にノイズが出ることになってしまいます。このため、知らない人は「一斉変動」が起きたと思ってしまうのです。

広い警戒ゾーンと長い予測期間

 また「南関東警戒レベルを最大に引き上げ」のなかで「特に注意すべきは房総半島で、北東部にある銚子と南部にある館山で水平方向の動きが真逆になっており、そのゆがみが拡大している」と主張していますが、これは完全な間違いです。

 地殻変動の観測では各点がそれぞれ動いているので、「絶対的な基準点」というものはありません。どこに基準点を置くかによって、どの地点がどの向きに動いているかは変わってしまうのです。銚子と館山の間の地点に基準点があるから逆方向に動いているように見えるのにすぎません。別の基準点をとると、銚子と館山は、同じ方向に動いています。

 そもそも彼らが予測している「警戒ゾーン」はとても多く、そして予測範囲も広いのです。この警戒ゾーンは日本でふだんから地震が起きている地域ほとんど全部をカバーしてしまっています。また地震を予測する期間が長く、そのうえ地震が起きるまで予測期間を延長していっています。

 これでは何かの地震が起きるのは当たり前になってしまいます。村井俊治氏が今年出した新書『地震は必ず予測できる!』の帯に「2014年1月以降に起きた震度5以上の地震をことごとく予測!」とありますが、このやり方だと当たって当たり前なのです。

■島村英紀(しまむら・ひでき) 地球物理学者。武蔵野学院大学特任教授。1941年東京生。東京教育大付属高卒。東大理学部卒。東大大学院終了。理学博士。東大助手、北海道大学教授、北海道大学地震火山研究観測センター長、国立極地研究所長などを歴任。専門は地球物理学。2013年5月から『夕刊フジ』に『警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識』を毎週連載中。著書の『火山入門――日本誕生から破局噴火まで』2015年5月初版(NHK出版新書)。『油断大敵! 生死を分ける地震の基礎知識60』2013年7月初版(花伝社)、など多数

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