独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)が米国でディーゼルエンジン車の排ガス規制を不正に逃れていた問題が広がりを見せています。VWは欧州でも同様の不正を行っていたとドイツの運輸相が明かしました。

 また、独BMWのディーゼル車の排ガスから基準値超の窒素酸化物(NOx)が検出されたと報じられたほか、欧米の報道によると、米環境保護局(EPA)は、BMWや独ダイムラー、米ゼネラル・モーターズ(GM)などについても調査する方針を固めたといい、自動車業界全体に波及する可能性が出てきました。

 今回のVWの不正問題は、どのような手法で行なわれたのか。また、この問題はどこまで波及し、日本メーカーにとっては追い風となり得るのか。モータージャーナリストの池田直渡氏に寄稿してもらいました。

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■身代わり受験

[写真]ディーゼル車の排ガス不正問題に揺れる独フォルクスワーゲン(ロイター/アフロ)

 フォルクスワーゲンは不正を行った。それは間違いない。ただし、その糾弾は漠然とし過ぎており、却って本質が見えなくなっている感じがする。

 ひとまずは、フォルクスワーゲンがやったことの何が悪くて、何が悪いとは言えないのか、そのあたりを整理してみたい。ただし、現在も刻々と状況が変わり、続々と新たな情報が寄せられる状況なので、残念ながら現時点で分かっている情報をベースに順当な考察をしたものにならざるを得ないことはご理解いただきたい。

 不正が発覚したのはフォルクスワーゲンのEA189型のディーゼル・エンジンで、欧州のひとつ前の排ガス規制「ユーロ5」の適合エンジンだ。フォルクスワーゲンのアナウンスが「一部車種」を強調するのは最新の「ユーロ6」対応のエンジンでは不正をやっていないとしているからだ。

 フォルクスワーゲンがやったことを一言で言えば「身代わり受験」だ。現在世界各国の排ガステストでは、予め運転パターンが決められている。フォルクスワーゲンは米環境保護庁(EPA)が行う排ガス試験の際、その運転パターンを検出すると、即座に試験対策用の専用プログラムに制御を切り替え、動力性能を犠牲にして優良な試験結果を示すようにセットされている。つまり、普通の運転モードでは使わない特殊なテスト専用プログラムに身代わり受験させて不正な結果を出していたのである。明らかな反社会行為で許されるべきものではない。

 一方で「テストモード以外では毒ガスを出し放題だったのがけしからん」という論調を多数見かけるが、これは的外れだ。例えるなら「受験科目以外の勉強をちゃんとしないとはけしからん」という話である。普通の大学を受験するのに、受験を控えてわざわざ受験科目以外の美術や音楽を勉強をする受験生がいないように、各国が定めた試験モード以外の運転モードにまで完璧を期している自動車メーカーは世界中に一社もない。

 例えば最高速で延々巡行するような時まで排ガスをキレイにしようと思えば、コストが高騰して、競争に勝てなくなる。ここを誤ると全ての自動車メーカーがクロになってしまう。要は、路上走行時に試験と同じ制御が行われているならそれは不正ではないということだ。

 こうした「非受験科目」の運転で有害ガスの排出数値が悪化するのは、30年以上前から当たり前に行われてきたことだ。もちろんモラルとしてどうかと言われれば正しいとは言えないが、そのために価格や動力性能で他社に負けるクルマを作っても、誰も買ってくれないのだから構造的に仕方がない。だからこそ各国政府は、排気ガスの基準を徐々に引き上げ、試験問題を難しくしてきたのだ。現在の規制値が十分かどうかについては議論の余地があるだろうが、それは今回の件とまた別の話である。