連載第2回は、行動経済学的視点で「軽減税率」について考えてみたいと思います。生活必需品の消費税が10%になる際も8%のままは、うれしい気がしますが、実際は誰にとっていちばんありがたいことなのでしょう? 経済コラムニスト・大江英樹さんが解説します。

【連載】行動経済学」で斬る!時事問題

そもそも軽減税率って?

消費税が10%になっても、生活必需品である食料品は8%のまま。これは誰にとって得なのか?(写真はイメージ、提供:アフロ)

 現在、消費税は2014年の4月に5%から引き上げられて8%になっています。この8%の消費税がさらに17年4月から10%に引き上げられることが予定されています。消費税の増税というのは消費者にとって負担が大きくなることですから生活に大きな影響を与えることは言うまでもありません。そこで消費税を上げるにあたって、少しでもその負担が小さくなるようにということで考えられたのが「軽減税率」と言われるものです。これは食料品などのような一定の生活必需品に絞って税率を上げないというものです。これについてはいろいろな意見がある中で15年の12月に自民党と公明党との間で導入にあたっての合意がなされました。

 ところがどうもこの「軽減税率」、野党だけではなく自民党の間にも効果を疑問視する声が出てきています。そこで、ここでは政治的な駆け引きや思惑といった話ではなく、純粋に経済的な面から見た軽減税率の問題点について考えてみたいと思います。
 

軽減税率は低所得者層に有利ではない

 一般的に消費税には逆進性があると言われています。例えば所得税などの税金を納める場合には、所得ごとに税率が決まっていて所得の多い人ほど税率が高くなっています。つまり収入が多いお金持ちの人からはたくさん税金をとりましょうということです。これは「累進性」と言われています。これに対して消費税は所得に関係なく一律ですから、結局は所得の少ない人の負担が大きくなってしまうと考えられ、「逆進性」があるというふうにみなされているのです。特に食料品などは生活していく上では必須のものであり、お金持ちも低所得者層も等しく使わなければならない費用です。こうした食料品に使うお金の割合のことをエンゲル係数と言いますが、低所得者層ほどエンゲル係数が高い、すなわち支出の中に占める食費の割合が大きいということが知られています。

 そこで食料品にかかる税率を低くすることで低所得者層の負担を軽くしましょう、というのがこの軽減税率の主旨なのです。そしてこの軽減税率の導入には世論調査で74%の人が賛成と言っています。(15年10月25日付日経新聞・テレビ東京調査)

 ところが多くの経済学者の人たちがこの軽減税率に反対しています。理由は低所得者層にはちっとも有利にならないということだからです。これは一体どういうわけでしょうか?たしかに先ほどのエンゲル係数の話などからすれば食料品などにかかる税率を軽減することは低所得者層の負担が軽くなるように思えます。ところがエンゲル係数というのはあくまでも支出に占める“割合”の話であって、絶対額で言えば、高所得者層の方が食料品にたくさんのお金を使っています。実際に政府の試算によると「酒類を除く食料品」を対象として軽減税率を実施した場合、年収176万円の層においては年間の軽減額が8,470円ですが、年収1,077万円の世帯では軽減額が1万9,750円となっており、何と高所得者層の方が2倍以上も負担が軽くなるのです。(15年5月22日 与党税制協議会資料より)