2015年を振り返ると、そこには国際秩序の変動がうかがわれる出来事が相次ぎました。その中で、米国のリーダーシップが精彩を欠くシーンが増えるとともに、中国やロシアの勢力がこれまでになく大きくなりつつあります。

 唯一の超大国としての米国の勢力に陰りが見え始めた状況は、大国間の摩擦や反目によってさらに鮮明になってきており、この傾向は今年もさらに増えることが見込まれます。大国が勢力圏や影響力を競うなかで、国際秩序がますます流動化するとみられるのです。(国際政治学者・六辻彰二)

【写真】存在感高める露中、相次ぐテロ……2015年 世界の10大ニュース

●ロシアの復権

[写真]ウクライナをめぐる対立やシリア空爆参入など国際政治の中で存在感を高めるロシア(Kremlin/SPUTNIK/ロイター/アフロ)

 1989年の冷戦終結後、米国を中心とする秩序が形成されてきました。1991年にソ連が崩壊し、市場経済と民主主義がグローバルスタンダードとなるなか、その潮流の中心に位置していたのは米国でした。経済力と軍事力はもちろん、科学技術開発や情報発信力など、多くの面で米国は他の国を大きく上回り、現在もそれは基本的に変わりません。

 しかし、2015年に限っても、米国がそのリーダーシップを十分に発揮できないことが目立ちました。ウクライナ危機は、その典型でした。

[地図]ウクライナ周辺地図

 ウクライナの東部ドネツクで、分離独立を叫ぶ住民がウクライナ政府と衝突を繰り返すなか、ロシア政府は物心両面で親ロシア派民兵を支援。隣接するウクライナがEU圏内に取り込まれることを阻止するため、軍事力まで用いるロシアに対して、米国はこれを非難したものの、実際に用いた手段は経済制裁の強化にとどめました。

 ウクライナをめぐって米軍が動けば、米ロ対決が避けられません。ロシアが米国に並ぶ核戦力を備えていることを考えれば、それは引いては共倒れの危険が現実になりかねないことを意味しており、この状況が米国を押しとどめたといえます。その意味で、米国政府の判断は理性的でしたが、他方でなりふり構わないロシアに押し切られたことも確かです。

 ロシアは9月末からシリアで、過激派組織「イスラム国」(IS)だけでなく、シリア政府軍と衝突を重ねる世俗派の反アサド勢力にも空爆を行っていますが、この場合も「どさくさに紛れて」自らの勢力圏を死守しようとするロシアに対して、米国は有効な手立てを打つことができていません。

 2001年から対テロ戦争が常態化し、米国民の間の厭戦ムードと財政赤字が大きくなったことを背景に、2008年に就任したオバマ大統領は、米軍の海外活動をできるだけ縮小する方向に舵を切ってきました。これによって米国の一国主義がトーンダウンした一方、冷戦終結以降、東欧諸国のNATO、EU加盟によって西欧との「境界線」が東方に移動することに警戒感を募らせていたロシアの復権が促されたといえるでしょう。

 2016年は米国の大統領選挙の年です。その結果はフタを開けてみなければ分かりませんが、民主党のクリントン候補の優勢が伝えられています。クリントン候補は空爆以上の関与をシリアで行うことに消極的で、クリントン政権が誕生した場合、中東をめぐる対立はロシアにとって有利な状況が続くことを意味するのです。

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