[写真]「奈良は日本人の心のふるさと」と語る書家の紫舟さん(撮影:小池義弘)

 日本の文化がいま世界で注目されている。アニメや和食は海外でもすっかり定着し、ファンを獲得している。今春の伊勢志摩サミットに合わせて企画される「世界に届けたい日本」を題材にしたフォトコンテストを、サポーターとして盛り上げる書家の紫舟さんも、日本の文化を海外に発信している一人だ。紫舟さんに、日本的な美しさと、それを発信する思いについて聞いた。

書道をベースに世界に日本を発信

[写真]紫舟さんは「作品には日本人の精神性や自然に対する思いを込める」という(撮影:小池義弘)

 紫舟さんは、NHK大河ドラマ「龍馬伝」(2010年放送)の題字などを手がけた書家として有名だ。書道は日本にもたらされた約1300年前から連綿とした歴史を持つ芸術だが、紫舟さんは伝統的な書だけではなく、絵画との融合やデジタルテクノロジーとのコラボに挑戦するなど、意欲的な表現を続けている。

 「文化のある種の限界を芸術のチカラでこえたい」という紫舟さんは、2013年には伊勢神宮第六十次式年遷宮を寿ぐ書「祝御遷宮」を任され、2014年には仏パリ・ルーヴル美術館の地下「カルーゼル・デュ・ルーヴル」で開かれるフランス国民美術協会の展覧会で「金賞」と最高位の「審査員賞金賞」をダブル受賞。昨年12月にも同展に日本人の現存作家としては初の主賓招待作家として出展し、好評を博した。

奈良は「日本人の心のふるさと」

 日本伝統の書道を創作フィールドにし、世界を股に掛けて活躍する紫舟さんは、どんなものに「日本らしさ」「日本の美しさ」を感じるのだろうか。

 紫舟さんが「大好きな場所」として挙げたのは、奈良の猿沢池から興福寺の五重塔を望む風景だ。

[写真]紫舟さんが「世界に届けたい日本」に選んだ猿沢池からの眺望

「猿沢池、その後ろに五十二段の階段、その上に興福寺の五重塔。この景色がいつも見たくて、その先にある旅館に泊まることにしています」

 6歳から書道を始めた紫舟さんは、いったん一般企業に就職したが、自分を見つめ直し、3年で退職。書家への道を目指した。奈良は、その書道の修行時代に3年間暮らした場所だ。

 奈良には物理的に塀がなく、どこからどこまでが敷地か分からないという。例えば、奈良公園、東大寺、興福寺、春日大社は境界がどこかあいまいだ。おかげで、一帯の緑は青空と壮大なスケールを生む。日本の美を感じる場所として挙げた猿沢池にも、車が走る道路にもガードレールがない。「それが美しく心ふるえる」のだという。

 「住んでみて分かりましたが、奈良は人に対しても“塀”を設けない。外から来た人にも心がオープン」。奈良では、家族との時間だったり、食事の時間だったり、人間として、日常の中で大切にするものの優先順位が高く、そういった生き方ができる寛容さを感じるという。紫舟さんは「奈良は驚くほど有機的な町。大切なモノばっかりが集まっている」と独特の言葉で表現する。

 「奈良は日本人の心のふるさと」。紫舟さんはそう語る。それも現在の日本ではなく、「もう少し前の日本の象徴」だという。そうした精神性に、日本の「原風景」を感じるといい、その象徴が「猿沢池からの眺望」なのだ。

 今年は、日本で「伊勢志摩サミット」が開催される。それに合わせて、内閣官房と内閣府の主催で「『世界に届けたい日本』フォトコンテスト」が企画されている。紫舟さんは、そのフォトコンテストのサポーターを務める。一般から写真を募集する今回のコンテストが「新たな日本を発見するチャンスになれば」と期待を込める。

「特別な建物やランドマークになるようなものだけでなく、身の回りにある風景。自分の町にしかない良さ、自分の暮らしの中にしかない、例えば食器や道具。まだ世界の人や日本の人が見たことがない、自分の心がふるえた風景を見せてほしい」

 サミットや2020年の東京五輪だけではなく、和食や漫画をはじめとする日本文化が世界で注目を集めている。紫舟さん自身、作品をつくる際は、世界に発信することを意識し、「日本人の精神性や自然に対する思いをいつも作品に込めたいと思っている」と話す。

 直しながら使う食器や何気なく自然に手を合わせるしぐさ。綿々と受け継がれ、日本人の心が伝わるような風景。そういった日本の「原風景」との出会いを紫舟さんは楽しみにしている。

・スマホでもOK 日本の美しい風景を投稿しよう!「『世界に届けたい』日本フォトコンテスト」(2月14日締め切り)