2016年アメリカ大統領選挙の民主・共和両党の指名をめぐる予備選段階がいよいよ2月1日(日本時間2日午前)のアイオワ州党員集会からスタートします。この予備選とアメリカ政治の今後の動向を、3回にわたって展望します。1回目は「トランプ現象」で注目される共和党の動向を追います。(上智大学教授・前嶋和弘)

【図】2年がかりの米大統領選 なぜこんなに長い選挙を行うのか

「隠れリベラル」「保守主義が瓦解」

[写真]ここのところ保守派からも批判的な声が出ているトランプ氏(ロイター/アフロ)

 2016年アメリカ大統領選挙の共和党指名争いでドナルド・トランプは数々の暴言を繰り返し、激しい批判を浴びてきました。ただ、その批判は基本的にはリベラル派の民主党支持者や、共和党内の中道的な立場からのものでした。例えば、数ある暴言の中でも、最も世間を騒がせた「すべてのイスラム教徒を当面入国禁止にする」という提案については「移民の国であるアメリカの多様性を否定する発言だ」「世界の4分の1はムスリムなのに」といった、リベラル派によくある、人権的な観点を強く意識した発言が中心でした。

 しかし、ここ1か月ほどの今回のトランプ批判はこれまでのものとはやや異なっています。リベラル派や共和党の中道的な層からの動きではなく、これまでは静かだった保守派論客らのものが一気に増えています。保守層が一斉に、しかも徹底してトランプたたきを展開しているのです。「トランプは福祉政策に積極的だったり、かつては妊娠中絶に賛成、銃規制に反対した。共和党として戦っているが、名ばかりで本当の保守ではない。間違いなく隠れリベラルだ」「トランプが共和党候補になってしまうと、1980年代以降、堅実に築いてきた保守主義が瓦解する」などの主張がその論陣の中心です。

 保守派の牙城といえる雑誌「ナショナル・レビュー」は2016年2月16日号で反トランプ特集を大々的に展開し、大きな話題となっています。アメリカでは多くの聴取者がある人気トークラジオ(聴取者参加型のラジオ政治番組)ホストのラッシュ・リンボウらもトランプ批判に躍起になっているほか、保守層に合わせた政治情報を提供するケーブル局のフォックス・ニュース・チャンネルの主要番組の論調もトランプと少しずつ距離を置きつつあります。

 そのフォックスが主催した1月28日の第7回共和党討論会にトランプは欠席しました。フォックスが主催した第1回目の討論会で、トランプに否定的な質問をした女性司会者のメイガン・ケリーが再び司会に加わったというのが欠席の理由です。フォックスは、トランプが欠席を表明して以来、ケリーがホストをつとめる番組を含め、様々な番組でトランプ批判をさらに加速させていました。

 ドナルド・トランプを引きずり降ろそうとする動きは保守論壇などのメディアだけに限ったことではありません。ここ数年、「小さな政府」を主張し、共和党内の最保守位置を完全に確保したといえるティーパーティ運動の“トランプ・アレルギー”は顕著です。ティーパーティ運動にとっては、トランプは「大きな政府」を志向する民主党と大差ない敵に映っているでしょう。