シルバー人材センターの仕事は雇用ではなく、労働の対価は「配分金」として支払われる(写真はイメージ、提供:アフロ)

 2015年12月、厚生労働省は雇用対策基本問題部会で、シルバー人材センターの就業時間規制など、機能強化を盛り込んだ報告書を了承を受け、16年の通常国会にて高年齢者雇用安定法の改正案を提出する方針です。

 これまでシルバー人材センターに登録する高齢者の労働時間は月20時間以下との規定がありましたが、その規制が緩和されると月40時間まで働くことが可能になります。また、10日程度に限られていた労働日数制限もなくなります。

「高齢者の活躍する場を増やし、不足する労働力の確保にもつなげたい」という自治体の要望を受ける形となった今回の改正案。一方、シルバー人材センターはこれまで、会員として働く高齢者への待遇や補償面、民間企業への影響など、さまざまな側面で問題視されることがありました。少子高齢化が加速し高齢者の雇用対策が一層必要性を帯びてくるなか、シルバー人材センターにはどのような改善策が求められるのでしょうか。

高齢者の労働人口の1割がシルバー人材センターを利用

 シルバー人材センターとは、国(厚生労働省)から助成金などの援助を受けて運営される社団法人のことを指します。全国に約1,300カ所の事業者が置かれ、会員数は72万人以上。これは65歳以上の労働力人口の1割に相当し、働く意欲のある高齢者の受け皿となっています。個人から公的機関、民間企業までシルバー人材センターに仕事を依頼する層は幅広く、センターはこうした顧客から業務の発注を受けると、会員である高齢者の中から適任者を選び仕事を斡旋しているのです。

 民間の人材派遣会社と構造は似ていますが、シルバー人材センターは営利を目的としない公益法人という点で民間企業とは大きく異なります。それゆえ、一般企業の相場よりも安く仕事を請け負うこともあり、ほかの民間企業の経営を圧迫するのではないかと懸念する声も上がっていますが、まだ具体的な措置案は提示されていません。

高齢者の「会員」には労働災害保険が適用されない

 また、会員である高齢者への待遇や補償面もまだ十分とは言い切れません。なかでも、会員に労働災害保険が適用されないという点が大きな問題となっています。それにもかかわらず、センターから請け負った作業は「業務」にあたるため、ケガをしても健康保険すら適用されず多額の医療費を請求されたケースが過去にはありました。12年には、会員の男性がセンターの業務として木の剪定をしているときに足の指の骨を折る大ケガをしましたが、労災も健康保険も認められず、結局85万円余りの治療費全額を求められ裁判にまで発展しています。

 この事例を受けて厚労省は対策案を措置。12年10月から就労中の損害については健康保険が適用されるようになり、各事業所には労災のかわりに「シルバー保険」への加入が義務付けられました。これで会員が医療費を全額負担するという事態は免れましたが、シルバー保険は全ての損害を補償しているわけではありません。熱中症や腰痛、むち打ちなど高齢者が負いやすい怪我にかぎってなぜか保険の適用外なのです。労働時間の上限が40時間内に緩和されることで、会員が損害を負う可能性はより高まることになるでしょう。こうしたリスクが今後の争点となりそうです。

 さらに、シルバー人材センターの会員には労働関係の法律(最低賃金法など)も適用されません。会員の労働に対する対価は「給与」ではなく「分配金」と呼ばれ、その金額が最低賃金を下回っても違法にはならないのです。シルバー人材センターの仕事は介護から草木の剪定まで多岐にわたりますが、短期的かつ簡単な作業がほとんど。こうした就業先には若い働き手が集まりにくい現状がありますが、その足りない労働力を高齢者が安価に請け負う可能性がでてきます。

 このように、高齢者が比較的低い待遇で就労している背景にはシルバー人材センターの運営目的が「高齢者の生きがい」に一貫していることがあげられます。シルバー人材センターの前身は「高齢者事業団」と呼ばれる団体で、「一般雇用にはなじまないが、高年齢者がその経験と能力を生かしつつ、働くことを通じて社会に貢献し、生きがいを得ていく機会を確保する」ことを目的として、1975年に設立されました。そのため、シルバー人材センターの高齢者たちは給与を稼ぐための「社員」ではなく「会員」という扱いとなり、センターとの間に「雇用関係」は発生しません。そうした曖昧な請負制度のなかで、会員への補償が十分になされてこなかったのです。