[画像]ミニバン隆盛の原動力となっているのはスライドドアと3列シート。チャイルドシートの法制化以降、その流れは一段と加速した。しかし、3列シートには様々な矛盾が存在する

 乗用車は何人乗りか? という質問はそれだけ聞くと少しおかしいかもしれないが、実は意外に難しい問題だ。国内の交通環境を考えれば、クルマの外寸はどこまでも大きく出来ない。その中で横何人掛けのシートを何列設置できるかという話だからである。

 一般的に言えば、横並びは2人か3人、列数は1列、2列、3列なのだが、実はそれぞれに利害得失があって、必ずしも「大勢乗れる」ということが大は小を兼ねていない。何を当たり前なことをと言わずに聞いていただきたいのだが、この話、相当に深いのである。

【画像】3列目は割り切り?トヨタ「シエンタ」 欲張りすぎないミニバン選びとは

“エコノミー”と“ファースト”

[画像]売れ行き好調の3列7人乗りBセグメントミニバンのシエンタ。買い物サイズのクルマに3列シートは意外に良い選択肢

 最初に知っておいていただきたいのは、3列シートで多人数乗りができることには必ず弊害があるということだ。例外はあるものの、ボディが大きく重く、そのため乗り心地が悪く、直進安定性も低い。燃費でもシートの出来でも劣る。

 いくつか例を挙げてみよう。道路運送車両法では乗員一人の体重は55キロに規定されている。いまどき非現実的な体重設定だが、それでも7人乗車だと385キロある。軽トラックの積載限界350キロより重い。つまりこれに耐えうる様にばねを硬くしないと危ないし、人の座る位置によって車両の前後重心位置が大きく変わるので、一番リスクの高い状態でも安全を確保しなくてはならない。だからハンドリングも徹底的にアンダーステアに仕立てるしかない。実際の設計では、体重をもっと現実に即した数値にしてあるので、症状はより悪化する。

 加えてシートというのは、クルマ全体の中でもかなり高価な部品だ。余分な脚数を用意するにはコストダウンか値上げかどちらかしか選択肢がない。しかしこの手のクルマの顧客は多くは子育て期の親が中心で、経済的に余裕がないことが多い。 にも関わらず、畳んだ時にテーブルになるようにとか 、回転して対面シートにしろとか、食べこぼしが簡単に拭き取れる素材にしろとか、あった方がいいだろうが、クルマにとって 本質的とは言えない余計な仕様追加が多い。それが売れる条件だと言われれば設計チームは対応するしかないので、「座るための性能」なんかにコストを掛けていられないというのが現状なのだ。だから座り心地が悪い。

 そういうクルマに一人で乗るのは空荷のトラックかリムジンにでも乗っているようなもので、クルマの設計要件と使用条件が全然違うということである。

 座席は「いっぱい付いてる分お得」という話ではないのである。そもそも床面積が限られているのだ。似た様な床面積にシートが多い少ないをどう考えるべきかは、飛行機のエコノミーとファーストを比べるとよくわかる。言うまでもなく1人あたりの専有面積が大きい方が贅沢なのだ。

 だから最も基本になるのは「ほとんど乗る可能性のない人数に備えて座席の多いクルマを選ぶ」のは損であるということだ。「ファーストとエコノミーのどちらを選ぶ」と言われて、ファーストが選べるのにエコノミーをチョイスしているのだからどう考えても得ではない。