米大統領選の指名争いに立候補しているヒラリー・クリントン前国務長官(写真提供:ロイター/アフロ)

 米大統領選の指名争いに立候補しているヒラリー・クリントン元国務長官が、日本と中国に対して意図的に為替を安くしていると批判しています。選挙を意識しての発言ではありますが、為替を安く誘導することはいけないことなのでしょうか。また米国にとっては不利なことなのでしょうか。

 クリントン氏は、米紙に寄稿し、日本や中国が過去数年にわたり為替操作で人為的に輸出価格を抑えてきたと名指しで批判しました。また共和党のトランプ候補も、日本の建設機械大手コマツの名前を出して、円安を批判しています。

 一般的に為替が安くなると、同じ製品をより安い価格で販売することが可能となります。このため、政府が意図的に為替を操作することは望ましくないというのが国際的な常識です。しかし現実は少し異なります。

グローバル経済の発達で事情が変わる

 価格以外に差別化要因がない低付加価値製品を輸出する場合、為替が安い方が有利になるというのは事実です。しかし最近では、グローバル経済が発達するとともに、製造業の地産地消(消費地に近いところで製造し、そこで供給する)が進み、どこで商品を買っても同じ値段になる傾向が顕著になっています。

 トヨタなどの日本メーカーは北米市場で製品を販売していますが、多くは米国内で生産されていますから為替はほとんど関係ありません。また付加価値が高い製品の場合には、為替が安くなったからといって値引きはしませんから、日本の安売り攻勢で米国企業が困窮するということもありません。低付加価値製品が多い中国の場合には、価格面で有利になるという部分はありますが、こうした低付加価値製品を米国内で製造するケースは少ないですから、実は中国からも被害を受けているわけではないのです。

批判の理由は、過去のイメージ?

 ではなぜクリントン氏やトランプ氏はこのような批判をするのでしょうか。それは、為替を安くすると安い輸入品が大量に入ってきて、米国内の労働者の仕事を奪うという過去のイメージを多くの人がまだ持っているからです。

 1980年代から90年代にかけて、日本メーカーは猛烈な低価格路線で米国市場に輸出攻勢をかけました。この結果、米国の製造業では倒産が相次ぎ、大量の失業者が街に溢れるという事態になりました。米国は日本に対して輸出を制限するよう申し入れましたが、日本側がこれを受け入れなかったため、両国の関係が緊張したこともあります。今の日本は自由競争を否定する風潮が強いですが、当時の日本は、弱い企業の労働者が失業して生活に困窮するのは当然だという雰囲気でしたから、米国で失業者が溢れることについて考慮すべきという論調はほとんどありませんでした。

 時代は変わり、為替が企業経営や雇用に与える影響はかなり少なくなっているのですが、こうした過去のイメージがあるため、選挙になると為替政策に対する批判が出てくるわけです。

(The Capital Tribune Japan)