【連載】Around 30 人生の分岐点~私はこれで生きていく~
第6回 育児と仕事を両立する裁判官・中馬慎子さん(30)

結婚、海外転勤、転職、起業…30歳が近づくと急に迎える人生の転機。そんな時に「私はこれで生きていく」という決断をした人の人生に、少しだけおじゃまさせてもらった。不定期連載でお送りするこの企画の第6回は、裁判官の中馬慎子さん(30)。2015年4月に育児休業から復帰し、仕事に育児にと奮闘する新米ママの日常に迫った。

貴重な「80分の通勤時間」

 「いってきます!」

 朝7時。中馬慎子さん(30)は、夫の健作さん(30)と長男(1歳8カ月)の2人にそう声をかけると、駅に向かって歩き出した。都内の自宅の最寄り駅から埼玉県内の職場まで、これから通勤電車に80分揺られる。

 実は慎子さんには、この朝の80分が欠かせない。職業は裁判官。民事、刑事、少年事件など多くの事件を担当する。事件に関連した文献を取り寄せては読み込むにはうってつけの時間なのだ。また、新米ママとして日々長男と向き合い、睡眠時間を削った日にはここで眠ることで体力の回復に努めている。育休から復帰してまもなく1年。そんな日々が続いている。

帰宅後も長男を寝かしつけてから仕事

中馬さんが働く、さいたま地方裁判所熊谷支部

 裁判官は常に多くの事件を担当し、日々時間に追われている。土日祝日にも事件は起きるわけで、裁判官は休日も交代で裁判所に待機している。特に、身柄を拘束するか否かの判断は急を要し、即座に対応するため、当番でない裁判官が呼びだされることもある。

 裁判官には、「午前9時から午後5時まで」のような所定の労働時間がない。自身が担当する裁判が開かれていない時には自由に仕事ができるため、慎子さんは保育園に長男を迎えに行くために、午後4時には帰る日もある。もちろん、早く帰宅できた日でも、長男を寝かしつけてから持ち帰った仕事に取りかかるのは、他の子育てしながら働く女性と同じだろう。

法律家の原点は「島根県」

 幸いにも司法試験を一度でパスした慎子さんは、ロースクール時代、司法修習からたびたび島根に向かった。大学生の時、漫画『島根の弁護士』を読み、「これが私のなりたい弁護士像」だと思ったからだ。所属する弁護士の人数が全国的に見ても少ない島根県で奮闘する女性弁護士の話に、法律家として人生を歩む将来の自分を重ねていた。電話帳で島根県内の弁護士事務所を調べ、電話をかけては訪ねて歩いた。東京出身でゆかりのない土地ということもあり、相手にされないこともあったが、時間を作って話を聞かせてもらったり、弁護士事務所を紹介してもらったりしていた。