マイナス金利の導入によって、金庫の売れ行きが増加するという逆説的な現象が起こっています。もともと日本は現金保有率が高い国なのですが、本来、現金の価値が減るはずのマイナス金利政策で逆にタンス預金が増えているのだとすると、経済に対する不安心理は相当なものだといってよいでしょう。

業務用の金庫に加えて、家庭用の金庫に伸び

マイナス金利導入で金庫が売れている(写真:アフロ)

 金庫の売れ行きが増加しているのは今に始まったことではありません。マイナンバーの導入によってオフィスで個人情報を保管する必要性が高まったことから、金庫の売れ行きは好調です。金庫メーカーの中には株価が急騰したところもあります。しかし今年に入ってから、金庫の売れ筋商品に変化が見られるようになってきました。業務用の金庫に加えて、家庭用の金庫が伸びているのです。ホームセンターの中には特設売り場を設置するところが出てきているのですが、これはマイナス金利の導入が大きく影響しているようです。

もともと現金志向が強い日本人

 日本はもともと現金志向が強く、先進国の中では突出した現金保有率となっていることはよく知られています。2015年における紙幣と硬貨の総額は90兆円もあり、これはGDPの17%に達します。これに対して、米国や欧州は7~10%程度の水準にとどまっており、現金はあまり流通していません。しかも米ドルとユーロを現金で持っている人のほとんどは、資産を保全したいと考える外国人ですので、米国人や欧州人で現金を大量保有する人はあまりいません。そう考えると、日本人の現金保有率は特別に高い水準と考えてよいでしょう。

 日本は決済システムの普及が十分ではなく、現金取引の商慣行が続いているという理由もありますが、やはり、お金に対する基本的な認識の違いが大きく影響していると思われます。

日本円を信頼しているのか? 政府を信用していないのか?

 現金を好むという行動は、日本円を強く信頼していると解釈することもできますが、一方で政府や銀行をまったく信用していないということにもなります。インフレが発生した場合、現金を持っていることが不利になるという現実を考えると、インフレは来ないと思っているのかもしれません。あるいはインフレに関して知識がない、もしくは不安心理が先行して正常な判断ができなくなっている可能性もあるでしょう。

 ともかく、タンス預金が増えることは日銀にとっては困った現象です。量的緩和策の基本は市場にインフレ期待を生じさせることですが、タンス預金はこれとは逆の行動だからです。不安心理がそうさせているのだとすると、日銀や政府はもっと分かりやすく国民に説明する必要があるかもしれません。

(The Capital Tribune Japan)