午前8時過ぎには、ファンが集まり始めていた。鳴尾浜球場のスタンドの収容人数は500人と小さいため、プレイボール1時間前には入場制限がされ、立ち見客が出た。お世辞にも鳴尾浜球場は、交通の便がいいとは言えず、しかも平日のデーゲーム。2軍の試合にここまでのファンを集めたのは、28年ぶりに背番号「31」をつけて帰ってきた掛布雅之2軍監督(60)の初陣への興味と期待感だ。

 メディアも“ミスタータイガース”の初陣を放っておかず、BSのスカパーで生中継され、地上波でも翌日の深夜に録画放映される。テレビ、ラジオの試合後インタビューの申し込みも3件あった。すべてが2軍戦では異例尽くしである。

 15日、鳴尾浜。神対中日のウエスタンリーグ開幕戦。
 試合前。
 掛布2軍監督は、選手へのミーティングでこう笑顔で語りかけた。

「ここにいる一人ひとりが一軍が優勝するための戦力なんだ。いつでも上に上がって戦力になる。そういう気持ちを持ち、責任を感じてプレーしてくれ。でも、自分のやってきた以上の野球はできない。する必要もない。相手に合わせた野球もする必要はない。そして、ミスを怖がるな、積極的なミスならいくらしてもいいんだ!明るく厳しく!そういう野球で行こう」

 円陣を組んだ選手は、こう声出しをしたという。
「掛布監督にウイニングボールを渡そう!」

 開幕投手に抜擢したのは、先発の6人目、あるいは、貴重な左の中継ぎとして1軍の戦力となる可能性が低くくない島本浩也(23)。だがその立ち上がりに、いきなり一死一、二塁のピンチを迎えた。4番に入っていたナニータ(34)をフォークでスイングアウトにとって二死となったところで、掛布2軍監督は、藤本敦士、平野恵一の両守備走塁コーチに「二塁走者が帰るのはしょうがないから一塁走者だけ生還させないようにちょっとレフトを下げるか」と、レフトの柴田講平(29)の守備位置に指示を出した。

 続く福田永将(27)の快音を残した打球がレフトへ。レフトの柴田は、背走、フェンスに張り付きジャンプ一番、好捕。スーパーキャッチで先取点を奪われるピンチを脱したのだ。
 掛布2軍監督は藤本、平野両コーチで笑顔でハイタッチを交わした。