金メダリストをやぶって日本に勢いをつけた太田(中央)は現地でファンから記念撮影をせがまれるなど大人気だった。

 上位2カ国に五輪出場権利が与えられるレスリングのリオ五輪アジア予選がカザフスタンのアスタナでスタート、フリースタイル57kg級の樋口黎(20、日体大)が優勝、グレコローマン59kg級の太田忍(22、日体大)が準優勝、フリースタイル74kg級の高谷惣亮(26、ALSOK)が準優勝で出場枠を勝ち取り、3人それぞれがリオ五輪の日本代表に内定した。日本の男子は、昨年の世界選手権では、エントリーした全階級で惨敗しリオ五輪出場枠を手に入れることができなかった。今大会も戦前の評価は決して芳しくなかった。日本勢に勢いをもたらしたのは、1試合目に世界選手権6回優勝、ロンドン五輪金のスーリヤン(イラン)を破って勝ち上がった太田だ。

 スーリヤンは2005年の世界選手権に20歳で優勝して以来、グレコ軽量級では別格の存在だった。手足が長く、相手のバランスが崩れる一瞬を見逃さず得点へ結びつけるテクニックに長け、試合開始直後の連続技で自分のペースへ巻き込む展開を得意としている。そしてラフなスタイルでもよく知られている。昨年の世界選手権ではその反則に厳しい警告を受け、その後の試合は、ケガを理由に棄権して順位なしに終わっていた。今回もバックポイントからの連続技で冒頭10秒ほどの間に4点を重ねる鮮やかさを見せつけたのち、足を踏む、首を絞めるなどの反則行為を審判からの死角で繰り返していた。

 ところが前半2分ごろ、スーリヤンと頭がぶつかりインターバルをとった太田が胴タックルを決め始めると反則行為も控えめにせざるをえなくなり、太田が圧力で勝り始めた。スーリヤンの得意パターンが崩れた結果、太田が7-4の逆転で判定勝利をもぎとった。大学の卒業式を終えたばかりで、世界選手権出場経験もない22歳が、30歳の金メダリストを破ったのは、大金星だった。この勝利をきっかけに勢いづいた日本男子で、五輪一番乗りを決めたのは、チーム最年少、20歳になったばかりの樋口だった。

「減量さえうまくいけば、五輪枠をとる自信があった」という樋口は、その言葉どおり万全の準備を整え、最大の難関だった計量をパスした。「緊張するほど試合がよくなる」の言葉通り準決勝までは、得意のアンクルホールドを次々ときめ、ユン(韓国)との決勝戦では「緊張感がいったん解けたあとの決勝への気持ちの作り方は課題。取り切れなかった」と反省したものの4-0で優勝した。