野依秀市(写真左)と対談する越後正一(写真右)「実業之世界」1963(昭和38)年4月号より

 伊藤忠商事の元社長、やがて会長にまで登りつめた越後正一(えちごまさかず)は繊維相場の成功で、出世をほしいままに手に入れました。「相場の神様」と崇められていたものの、その相場人生は波乱万丈の連続でした。どんな苦境に遭っても、明るく前向きでいられたのは、いつも心に抱いていた一編の詩に支えられていたからかもしれません。常に暗雲の中に光を探し出した投資家の人生を、市場経済研究所の鍋島高明さんが解説します。

相場に最も大切なこと

伊藤忠商事の社長、会長を18年間務め、伊藤忠の黄金時代を築いた越後正一は自他ともに認める昭和の「相場の神様」である。越後は日本経済新聞「私の履歴書」の中でこう述べている。

 「相場に最も大切なことは、先行き見通しであることは間違いないが、それをいつ手仕舞うか、つまり売ったものは買いに、買ったものは売りに、いつ転じるかという、その転機が成功、不成功の分かれ道になる。計算上いくら利益があがっていようと、実際にそれを手に入れなくては、絵に描いたモチに過ぎない」

 相場は仕掛けるより手仕舞いがむずかしいといわれるが、越後ほどの名相場師でも「転じる」タイミングに頭を悩ます。「終わり良ければすべて良し」というが、相場もその通りで、首尾よく終わる直前で難儀するのが常である。

投資家の美学