[図]フィリピン海プレート、太平洋プレートという海のプレートの動き(気象庁サイトより)

 一方、この熊本で起き始めた地震が、恐れられている「南海トラフ地震」を引き起こすのではないかは、学問的には、まったく分かりません。

 ただ、両方の地震ともフィリピン海プレートが西南日本を押してきているために起きたことは確かなことなので、お互いに、何かの関係がないはずがないのです。残念ながら、その解明は、まだ出来ていないのです。

地震予知へ研究が進められてきた「前震」

 ところで気象庁が言うように4月16日までに起きてきた地震を前震だとしても、それらを前震として認識できなかったことは明らかです。もっと大きな地震が襲って来ることは予想できなかったことになるのです。

 実は前震は、地震予知の手法の中でも、もっとも有力なものとして研究されてきました。前震を前震として認識できれば、「これからもっと大きな地震が来る」ことを予知できるからです。

 しかし、結局は分かりませんでした。地震としての揺れ方(周波数成分)も予想と違って本震と違わないし、「地震群」の中の大小の地震の割合(専門的にはb値)も、前震は本震とは違うと主張する研究はあったものの、そうではないという研究も多かったのです。

 じつは東日本大震災を起こした東北地方太平洋沖地震のときも、2日前に津波警報が出たほどの比較的大きな地震が起きていました。しかし、地元の新聞社に「前震では?」と問われた東北大学の地震学の教授は「前震ではない」と言って記事になってしまったのです。もちろん、その答えは間違っていました。

“方程式はない” 現在の地球物理学の限界

 天気予報は当たらないこともありますが、観測値を入れれば明日の天気が計算できるような方程式がすでに分かっているのです。「大気の運動方程式」というものです。これに、日本の陸上だけで1300地点もあるアメダスの観測データや気象ゾンデでの上空まで入れた三次元的なデータを入れれば、計算が可能なのです。

 しかし、この種の“方程式”は地震については見つかっていません。つまり科学的に地震を予知する根拠は、まだないのです。

 方程式が出来なくても、有力な前兆が見つかれば、とりあえずの地震予知は出来る、として、いままで地震学はいろいろな取り組みをしてきました。

こうして、「前兆を見つけるための」地震予知は、かなり昔から取り組まれてきたテーマになっています。たとえば地震予知計画が始まったのは1965年で、半世紀以上前のことです。

 前震に限らず、種々の地震活動の変化や、地殻変動観測や、電磁気観測や、地球化学観測などによる前兆の検出が試みられてきましたが、しかし、いまだに、これといった手法は見つかっていないのです。

 現在の学問では、たとえば中央構造線のどこかで、いずれ地震が起きることは分かっていました。しかし、どこで、いつ、起きるのかは分かっていませんでした。それが、現在の地球物理学の限界なのです。

 今回の地震は典型的な内陸直下型地震でした。この種の地震は、中央構造線に限らず、日本のどこでも起きる可能性があります。熊本の地震はけして「対岸の火事」ではないのです。

■島村英紀(しまむら・ひでき) 武蔵野学院大学特任教授。1941年東京生。東京教育大付属高卒。東大理学部卒。東大大学院終了。理学博士。東大助手、北海道大学教授、北海道大学地震火山研究観測センター長、国立極地研究所長などを歴任。専門は地球物理学。2013年5月から『夕刊フジ』に『警戒せよ!生死を分ける地震の基礎知識』を毎週連載中。著書の『火山入門――日本誕生から破局噴火まで』2015年5月初版。NHK新書。『油断大敵! 生死を分ける地震の基礎知識60』(花伝社)2015年12月初版。花伝社。『人はなぜ御用学者になるのか――地震と原発』2013年7月初版。花伝社。など多数

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