
左がアフリカ化ミツバチ、右がセイヨウミツバチ(Scott Bauer, USDA Agricultural Research Service, United States)
皆さんは『キラー・ビー』や『スウォーム』というアメリカ映画をご覧になられたことはあるでしょうか?どちらも、1970年代に制作されたやや古い映画なのですが、凶暴なミツバチの大群が人間を襲うという動物パニック・ムービーです。SF(空想物語)にも思われるストーリーですが、実は、映画に登場する「殺人ミツバチ」は決して空想ではなく実在するのです。
しかも、実在する殺人ミツバチはもともとは自然界には存在せず、人為的に作られたものなのです。そもそも殺人ミツバチはなぜ作られたのか、危険であれば駆除はできないのか、そして日本侵入の可能性などを国立研究開発法人国立環境研究所の五箇公一さんが解説します。
人間が作り出した殺人ミツバチとは?
今年5月にアメリカ・アリゾナ州の自然公園で、ハイキングを楽しんでいた20代の男性がミツバチの大群に襲われて死亡するという事件が起きてニュースとなりました。この男性は、1000カ所以上、ハチに刺されていたと報告されています。おそらく、殺人ミツバチ「キラー・ビー」によるものと思われます。北米では、1990年代からこのキラー・ビーが出現し、人や家畜が襲われて、大けがをしたり、死亡したりする事件が発生しています。
このキラー・ビーは、アメリカではAfricanized honeybee(アフリカ化ミツバチ)と呼ばれており、その正体は、人間が作り出したミツバチの雑種系統なのです。
ことのはじまりはブラジルで起こりました。1950年代、ブラジルでは、ヨーロッパ産のセイヨウミツバチ(Apis mellifera melliferaおよびApis mellifera ligustica)を養蜂に使っていました。しかし、温帯以北の気候に適応進化してきたセイヨウミツバチは、熱帯域では活動性が低く、ブラジルでの養蜂業はいまひとつ振るいませんでした。
そこで、ブラジル政府は、熱帯域に適応した、より生産性の高いミツバチを育種するプロジェクトを立ち上げました。そして、プロジェクト・リーダーだった生物学者Warwick Estevam Kerr博士が1956年に南アフリカ共和国からアフリカミツバチ(セイヨウミツバチのアフリカ亜種Apis mellifera scutellata)の飼育群を導入し、従来のセイヨウミツバチと交配させて新しい系統を育種することを試みました。
暑いアフリカ原産のアフリカミツバチの形質を導入することで、熱帯ブラジルでも元気に飛び回れるミツバチを生み出すことができると考えたのです。
終わりなき外来種の侵入との闘い
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