先日、倉本聰が来春から始まるテレビドラマの創作ノートを見せてくれた。これがなかなか面白いので、少しだけ紹介する。

 倉本はドラマのシナリオを書く前に必ずやる作業がある。それは主な登場人物の「履歴書」を作ること。ただし、この履歴書はOO年□□大学卒、××年△△入社、といった就職時の履歴書のような事務的なものではなく、登場人物に精神的に影響を与えた出来事を書いたもの。

 倉本は富良野塾の塾生たちにドラマに登場する人物の履歴書の書き方を教えていたが、その講義の中で、登場人物の履歴を書く前に先ず自分自身の履歴書を書いてみるように言った。自分の履歴の中で自身の人間形成に影響を及ぼした出来事を確認していく作業だ。塾生たちは自分の履歴書を書くことで、如何にして自分自身の人間性や人格が形成されたかを知ることになる。考えてみると、私たちは意外と自分の履歴を振り返ってことがないのかもしれない。一度試してみる価値はあると思う。

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倉本が描いた木の点描画(提供:林原博光氏)

倉本が講義で指摘した登場人物の履歴書に必要なポイントは以下のようなもの。
1、人物の氏名、年齢、生年月日、出身地、育った場所。長所と欠点。
2、父母、祖父母の職業、性格。兄弟姉妹の存在と関係。
3、初恋から始まる恋愛歴。恋愛の質と深さ。失恋とその理由。
4、趣味や興味を持っているものとその理由。
5、何でも打ち明けられる友人の有無。その友人の職業、性格。
6、影響を及ぼした人物の氏名、年齢、職業、性格。
7、過去に受けた精神的ダメージ。その傷跡。
8、本人の心の拠り所、居場所。
9、住んでいる町の地図、家の中の部屋の間取り、窓から見える風景。

 こうしたものを具体的に描いていくとその人物像が見えてくる。主人公にかかわる人物の履歴も同じように書いていくと自然とドラマが生まれてくる。そこにその時代背景、時代の豊さ貧しさ、人の暮らし、流行っていたもの、その家の豊かさ、貧しさ、などを当てはめていくとストーリーが浮かんでくる。その映像がより鮮明になる。

 何でこんなシナリオ術をご紹介したかというと、私たちは予想外に自分のことでも気づいていないことが多いし、自分の身近な人、妻や夫、子ども、友人などのことも表面的にしか知らないことが多いと思うからだ。関わりのある人を理解しようとしたいなら、その人の履歴を一度想像してみて、本人に確かめて見ると予想外な新しい発見があるに違いない。その人との関係も深まり、新しい人間関係が生れてくるかも知れない。