先制点を決めた前橋育英の高沢(写真・右 :田村翔/アフロスポーツ )

 悪夢を味わわされてから約7ヶ月。あまりに短すぎる夏に涙した選手たちが、悲願の大会初優勝をかけて最も長い冬に臨もうとしている姿に、高校サッカー界の名門、前橋育英(群馬)を率いて35年目になる57歳の山田耕介監督は苦笑いを隠せなかった。

「今年のチームは何をやっても上手くいかなくて、選手たちもバラバラで本当に大変だったんですけどね」

 7日に埼玉スタジアムで行われた全国高校サッカー選手権大会準決勝。前半30分にMF高沢颯(3年)が決めた虎の子の1点を守り切って佐野日大(栃木)を振り切り、1回戦から無失点のまま2大会ぶり2度目の決勝進出を決めた「タイガー軍団」の前評判は、決して芳しいものではなかった。

 理由はインターハイの群馬県予選にある。昨年6月11日。シードされて4回戦から登場した前橋育英は1‐1のまま突入したPK戦で、常磐にまさかの黒星を喫してしまった。後半開始から投入され、PK戦では4番手で決めたFW人見大地(3年)は、心に刻まれた衝撃をこう表現する。

「前橋育英の歴史上で初めてと言っていいくらいの敗戦だったので…正直、史上最悪の代だと自分たち3年生は思ってしまいました」

 木端微塵に打ち砕かれた自信。百戦錬磨の山田監督をしてこう言わしめるほど、夏の目標をいきなり失ってしまったチームは袋小路に入り込んでしまった。

「選手たちは何をやっていいのかわからない、私たちスタッフも何から始めていいのかわからないような状態でしたね」

 落ち込んでも時間は待ってくれない。冬の選手権で捲土重来を期すために。山田監督はチームを一度解体することを決意する。総勢152人の部員を10人ずつのグループに分けて、敗戦後の1週間を徹底した話し合いの場にあてた。

 グループごとに首脳陣に対して言いたいことを忌憚なく吐き出させて、まず書面にまとめさせて提出させた。それを基に監督およびコーチ陣と選手たちが、腹を割って話し合いを重ねた。キャプテンのボランチ大塚諒(3年)によれば、選手たちから寄せられた意見のなかにはこんなものも含まれていたという。

「何でトップチームにコイツが入っているのか」

 152人もの大所帯ともなれば、トップチーム以外の選手たちの心にはさまざまな感情が芽生えてくる。なぜ公式戦に出られないのか。もっと自分のプレーを見てほしい。心の叫びといってもいい思いは受け止められ、話し合いの期間を終えてからは紅白戦漬けの日々が幕を開けた。

「下のカテゴリーでいいプレーをした選手は上へあげられるし、トップチームでダメだった選手は落とされる。いろいろなカテゴリー同士の紅白戦が、1ヶ月くらい続きました」

 チーム内がにわかに活性化していった過程を大塚が振り返れば、インターハイ予選以降はトップチームと下のカテゴリーを行き来することが多かった人見は、下のカテゴリーの選手たちの思いをこう代弁した。

「やっぱり嬉しかったですね。上のカテゴリーのチームと対戦するときはすごく燃えますし、ファウルもかなり多い、バチバチした激しい試合になっていました」