まだまだ続いている大陸移動ミステリー

 ウェゲナーの学説は21世紀の今日に至るまで、その評価を着実に高めけ続けてきた。先述したように地質学や地球科学の分野はもとより、生物学や地理学、物理学、気象学などさまざまなサイエンスの分野の研究者を惹きつけている。

 そしてその詳細なレベルにおいて、大陸移動の研究は今日ますます活発になっているのは、(門外漢の私からみても)間違いないようだ。新たな発見は大小さまざまなものを含め、継続的になされている。そして(重要なことに)更なる問いかけを我々に投げかけてくる。

 例えばつい最近発表されたRowley等(2016)の研究によればプレートの移動は、地球のかなり内部―コアの一部―からのマグマの上昇流の可能性が高いそうだ。今まで広く認められてきた一連の「マントル対流」の仮説を、大きく揺さぶる可能性のある研究といえそうだ。今まであまり研究の進んでいなかった地球の最深部に、これからはスポットライトが当てられることが予想される。コアからの非常に高温なマグマの上昇は、プレートの移動だけでなく、地震や火山活動などに直接影響を与えることもあるのだろうか?(興味が尽きない。)来年以降の地質学の教科書において、この部分が書き改められる可能性が高そうだ。

Rowley, D. B., A. M. Forte, et al. (2016). "Kinematics and dynamics of the East Pacific Rise linked to a stable, deep-mantle upwelling." Science Advances 2(12).

 21世紀に入っても脈々と受け継がれているウェゲナーの系譜。私はこの事実に深い感銘を受けずにはいられない。地球という壮大なスケールの自然現象には、まだまだ未知なる部分が(当然)隠されているのだ。ウェゲナーはこの神秘に満ちた惑星の一部―もしかしたら、かなり大きな部分―に見事脚光をあびせることに成功したようだ。

 私がウェゲナーの生涯と業績から受け取るメッセージとは、社会的な地位や賞賛とは別に「非常に強い内なるモチベーション」というものが、科学者(特に研究者)には存在するという事実だ。この内なる好奇心、自然の神秘を理解したいという強い欲求、そして(おそらく)人類に共通の本能は、止めることができないのかもしれない。まるで地球の内部からとどろなく湧き上がるマグマの上昇のように。

 そうでもないと例えばニュートンが、全ての研究成果を「自分の胸の中だけにしまっておいてもいい」という感情は説明できないだろう。ダーウィンが20年近くも生物進化における自然選択説を、引き出しの中にしまっておいた理由も説明がつかない(もしかしてその生涯、発表する気がなかった可能性も指摘されている)。ガリレオは裁判にかけられている最中にもかかわらず、何故地動説を執拗に唱え続けたのだろうか。

 このウェゲナーの生涯とその後の一連の研究史は、俗な言い方で表現させていただければ、「クールでカッコいい」。私の地質概要のクラスの、果たして何人の生徒がこのメッセージを受け取ってくれるのだろうか? しかしウェゲナー本人にとって、こうした他者や社会からの直接の賞賛(のようなもの)は、地球現象におけるミステリーと比べたら、ほとんど重要でなかったのかもしれないが。

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