地球は46億年前に誕生したといわれています。そして生命は約40億年前に生まれ、わたしたちホモ・サピエンスの種が初めて現れたのは、およそ20万年前。地球の長い歴史を1年に置き換えた場合、人類は12月31日午後11時半過ぎにようやく出現したと例えられるほど、わたしたち人間の歩みは実は、とても短いものです。

 人類出現まで、地球はどのように環境を変えてきたのか―。古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が、前回に続き、大陸移動の研究について執筆します。

21世紀版大陸移動説(上) 生前に研究が認められなかったウェゲナーの悲劇

イメージ1:地球の内部構造。地殻(プレート)の移動は、マントルに位置するマグマの対流によって起こるとされる仮説が今のところ有力だ。(アフロのイメージをもとに作成)

 この記事は前回(「21世紀版大陸移動説(上)生前に研究が認められなかったウェゲナーの悲劇」)の続きだ。興味のある方はこちらで参照可能

その3:1960年代以降の再評価

 大陸移動を直接起こしたメカニズム(原動力)は、1960年代に入ってはじめて解明されていく。実にウェゲナーの死後(1930年)から30年以上の時が経っていた。

 そのメカニズムはほぼ「地球内部の構造」と大きく関わっているという見解で一致しているようだ。地球を卵に例えてみると、中心部の黄身にあたる部分が「コア(Core)」(=核)と呼ばれる部分だ。中間部の白身にあたる「マントル(Mantle)」は、地球の構造上約83%の体積を占める。地球の内側は非常に高温なのでドロドロに解けた鉄分をたっぷり含んだ物質(マグマ)でいっぱいだ。そして中心部にはより密度の高い物質で占められている。(イメージ1参照)

 そして卵の殻のように一番外側に位置する部分が「地殻(Lithosphere及びPlate)」だ。地球の外側に向かうほど基本的に気温が低くなる。そのため一番外側の地殻は、ほぼ岩石で形成されている。この地殻は大小さまざま30以上のピースから成る。ヒビの入ったゆで卵の殻のイメージに近い。大きなものでは太平洋プレートのように海洋のほぼ全体を占める。大西洋は(ウェゲナーが推測していたように)ほぼ中心線を境に東西二つのプレートから成る。大陸に位置しているものもいくつかある。

 こうした地殻のピースを「プレート」という。ウェゲナーの学説において移動するのは大陸のプレートだけでなく、海洋のプレートも含むことになる。「大陸移動」という言葉を鵜呑みにすると、この事実を見落とすかもしれない。

セオリーとしてのプレートテクトニクス理論の誕生

イメージ2:1929年にウェゲナーによって初めて命名された「超大陸パンゲア」。約2億年前に分裂がはじまったと考えられているが、その直接のメカニズムは果たして何だったのだろうか?(イメージ:アフロ)

 卵の殻にあたるプレートが(アセノスフェア=Asthenosphere=と呼ばれるマントル最上層に位置する比較的薄くやや粘質の層の表面を)スライドして移動するのが、ウェゲナーによってはじまった「大陸移動説」の本質だ。超大陸パンゲアの分裂もこの現象で説明できるとされる。(イメージ2参照)

 プレートが移動するそのメカニズム(動力の源)は、マントルに内在するマグマの「対流」という考えでほぼ一致しているようだ。火山の噴火や地震多発地域が、プレートとプレートの境界線によくみられるのも、このアイデアをサポートしている。しかし具体的にマグマの対流はマントル上層部だけなのか、内層部レベルまで含むのかは、研究者によって意見がわかれるようだ。

 さてプレートがそれぞれの方向に移動するということは、その誕生地となる境界線と、プレート同士がぶつかり、地球内部へと沈んでいく境界線に二つのタイプが生じる。日本列島はご存知のようにちょうど太平洋プレートが沈んでいく、いわゆる沈み込み帯(subduction zone)の真上に位置している。その際に起きるひずみと反動が一連の地震と大津波の原因とされる。プレートのモーション(動き)は莫大なエネルギーを生じ、甚大な被害を地球規模で引き起こす。

21世紀版大陸移動説(上) 生前に研究が認められなかったウェゲナーの悲劇

 こうした一連のアイデアは1960年代にカナダの地質学者ウィルソン博士(John Tuzo Wilson)が発表した一連の研究論文が大きく貢献している。そして1960年代から70年代にかけて、この学説は地質学者や地球物理学者などにとって、一躍人気の研究トピックへと変貌を遂げる。

 そして新たに発表されたさまざまな研究及びデータ(例えば岩石に記録されている太古の地磁気データ、海底の形態、地震波トモグラフィー、GPSを用いた大陸やプレートの詳細な移動パターン、コンピューターを基にしたマントル対流のモデル、新たな大陸間における化石記録)等も、ウェゲナーの学説をより強固なものへと押し上げた。いわゆる「プレートテクトニクス理論」というセオリーの誕生だ。

 ちなみにウェーグナーの死後に起きた一連の大陸移動説の経緯(いきさつ)、そして20世紀後半に行われた主要なプレートテクトニクス研究の流れは、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の吉田晶樹博士の記事(日本語)において、より詳しく知ることができる。

まだまだ続いている大陸移動ミステリー

 ウェゲナーの学説は21世紀の今日に至るまで、その評価を着実に高めけ続けてきた。先述したように地質学や地球科学の分野はもとより、生物学や地理学、物理学、気象学などさまざまなサイエンスの分野の研究者を惹きつけている。

 そしてその詳細なレベルにおいて、大陸移動の研究は今日ますます活発になっているのは、(門外漢の私からみても)間違いないようだ。新たな発見は大小さまざまなものを含め、継続的になされている。そして(重要なことに)更なる問いかけを我々に投げかけてくる。

 例えばつい最近発表されたRowley等(2016)の研究によればプレートの移動は、地球のかなり内部―コアの一部―からのマグマの上昇流の可能性が高いそうだ。今まで広く認められてきた一連の「マントル対流」の仮説を、大きく揺さぶる可能性のある研究といえそうだ。今まであまり研究の進んでいなかった地球の最深部に、これからはスポットライトが当てられることが予想される。コアからの非常に高温なマグマの上昇は、プレートの移動だけでなく、地震や火山活動などに直接影響を与えることもあるのだろうか?(興味が尽きない。)来年以降の地質学の教科書において、この部分が書き改められる可能性が高そうだ。

Rowley, D. B., A. M. Forte, et al. (2016). "Kinematics and dynamics of the East Pacific Rise linked to a stable, deep-mantle upwelling." Science Advances 2(12).

21世紀版大陸移動説(上) 生前に研究が認められなかったウェゲナーの悲劇

 21世紀に入っても脈々と受け継がれているウェゲナーの系譜。私はこの事実に深い感銘を受けずにはいられない。地球という壮大なスケールの自然現象には、まだまだ未知なる部分が(当然)隠されているのだ。ウェゲナーはこの神秘に満ちた惑星の一部―もしかしたら、かなり大きな部分―に見事脚光をあびせることに成功したようだ。

 私がウェゲナーの生涯と業績から受け取るメッセージとは、社会的な地位や賞賛とは別に「非常に強い内なるモチベーション」というものが、科学者(特に研究者)には存在するという事実だ。この内なる好奇心、自然の神秘を理解したいという強い欲求、そして(おそらく)人類に共通の本能は、止めることができないのかもしれない。まるで地球の内部からとどろなく湧き上がるマグマの上昇のように。

 そうでもないと例えばニュートンが、全ての研究成果を「自分の胸の中だけにしまっておいてもいい」という感情は説明できないだろう。ダーウィンが20年近くも生物進化における自然選択説を、引き出しの中にしまっておいた理由も説明がつかない(もしかしてその生涯、発表する気がなかった可能性も指摘されている)。ガリレオは裁判にかけられている最中にもかかわらず、何故地動説を執拗に唱え続けたのだろうか。

 このウェゲナーの生涯とその後の一連の研究史は、俗な言い方で表現させていただければ、「クールでカッコいい」。私の地質概要のクラスの、果たして何人の生徒がこのメッセージを受け取ってくれるのだろうか? しかしウェゲナー本人にとって、こうした他者や社会からの直接の賞賛(のようなもの)は、地球現象におけるミステリーと比べたら、ほとんど重要でなかったのかもしれないが。

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