「人類」とは進化上何をさすのか?

 ここで一つ疑問がある。「人類」(または「ヒト」)と一言でいっても具体的にどの進化系統グループを含むのか、はっきり分からない方が多いのではないだろうか。ホモ・サピエンスという種は、(当然)人類にあてはまるが、例えばホモ・エレクトスではどうだろうか? アウストラロピテクスなど多数の近縁の化石種や属もいる。もしチンパンジーやゴリラをこの人類という「メンバーに加える」といえば、「いや、ちょっと待ってくれ」と抵抗を覚える人もいるかもしれない。

 人類とははたして何なのか。この場を借りて改めてまとめてみたい。(もう「すでに知っている」という方は是非どうかこのページは読み飛ばしていただきたい。)おそらく何千という古生代の三葉虫の種や先カンブリア代後期の初期動物などの分類や進化系統の流れは、その道の専門家・研究者くらいしか精通していないはずだ。しかし、我々ホモ・サピエンスと非常に身近なグループにどのようなものがいるのか、大まかな情報くらいは基礎知識として知っておいてもいいかもしれない。(健全な好奇心を満たすことに傾ける情熱は、太古の昔から脈々と現代に至るまで、我々に引き継がれてきた人類に「共通な遺産」といえば大げさだろうか。)

 人類及びヒトの進化関係をのぞく時、その道しるべを表す進化系統樹はかなり役に立つはずだ。どの種がより近縁なのか、地質年代上いつ頃枝分かれしたのか、といった情報が一目で認識できる。(この大まかな仕組みは、以前の記事でもすこし触れておいたので興味のある方は下記のリンクを参照されたし)。

https://thepage.jp/detail/20170330-00000009-wordleaf

Image 1:人類の進化系統樹とGraecopithecusの位置。地質年代と系統関係はさまざまなソースをもとにした。(図: T. Ikejiri)

 人類進化の系統樹を大まかにまとめてみた(Image 1)。ヒト上科(Hominoidea)、ヒト科(Hominidae)、ヒト亜科(Homininae)、ヒト族(Hominini)、ヒト亜族(Hominina)など「ヒト」という言葉で溢れかえっている。スペルを少しでも間違うと、日本語でも英語でもまるで違うグループをさすことになるので注意が必要だ(ヒト権侵害になりかねない。)ヒト科は先に述べたようにヒト(ホモ属の種)と共に、チンパンジーとゴリラとオランウータンの仲間を含む。ヒト亜科はヒト族(Hominini)の種プラス、チンパンジーとゴリラの仲間を加えるがオランウータンは含まれない。系統樹の枝がどのように分かれているかが鍵となる。

 そしてホモ・サピエンスとしてのHomoは、生物分類学上の「属」にあたる。現在トータルで9種が知られているが、研究者によって種と亜種の数や定義の意見は少し分かれている。

 厳密に言うと「人類」という言葉は生物学・分類学的に正式に特定されているわけではない。あくまで一般的な ── 便宜上あえて「あいまいさ」を含ませておいた ── 言葉だ。そのため、ヒト及び英語で‘hom’という文字がついているなら、この表のどのレベルにおいても、人類と言って差し支えがないかもしれない。ヒト科Hominidaeの種が人類という大きな系統樹上の枝をさすなら、チンパンジーとゴリラも「人類」の一員のなる。一方、ヒト亜科Homininaeを基準に人類と定義すれば、こうしたバナナ好きのメンバーは含まれないことになる。文章で表すとかなりややこしいが、上の系統樹のイメージで確認すれば分かり易いはずだ。

 このリストのさらに上(=系統樹上の枝の外側)には「ヒト上科(Hominoidea)」があり、テナガザルの仲間が含まれる。さらに「狭鼻下目(きょうびかもく;Catarrhini)」のグループには、ニホンザルなど旧世界(=ユーラシアとアフリカを含む大陸の総称)に生息するオナガザルの仲間が、ヒト科の種とともに構成されている。おそらく言葉の綾(あや)という意味において、こうした旧世界のサルの仲間を人類と一般に呼ぶことはほとんどないようだ。しかし、ヒト上科にあたるテナガザルの種は、人類と呼んでいいのだろうか?

 前置きとしての説明が少し長くなったかもしれない。しかし結論から言うと、今回(再)発見された二つの化石標本は「ヒト族(Hominini)」に含まれる種の中でも「最古のもの」と研究チームは推定している。上にまとめたようにこのヒト亜科にはヒト属の系統だけでなく、チンパンジー亜族の仲間含まれるが、ゴリラとオランウータンは除く。Graecopithecusはこのヒト族の最も古い共通の祖先、及びそれに非常に近い種だと、この研究チームは結論づけているわけだ。

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