明治時代中期の「東京・新橋」写真(筆者所蔵)

 「この通りは昔、路面電車が走っていたんだよ」。東京都江東区のバス停で隣り合わせた80代の女性が目を細めて話してくれました。今ではバスや自動車であふれかえり、なかなか想像できそうもない光景ですが、目を閉じると一瞬タイムスリップできました。

 明治中期に庶民の足として誕生した路面鉄道のほとんどは昭和40年代頃には姿を消していきます。日本に初めて登場したときの路面鉄道の動力は、現在のように「電気」ではなくて「馬」で、「鉄道馬車」と呼ばれていたそうです。どこか牧歌的な雰囲気をまとう鉄道馬車が行き交う街にはどのような光景が広がり、都市部の交通はどのように発展していったのでしょうか。明治期の古写真や絵葉書から、当時の様子を大阪学院大学経済学部教授 森田健司さんが解説します。


  日本初の「交通機関としての路面鉄道」

 路面鉄道という語には、すでにノスタルジックな響きすら漂う。かつて日本の各地に見られたこの情緒溢れる都市交通機関は、今や多くが姿を消してしまった。

 ところで、この路面鉄道が初めて日本に登場したのは、一体いつのことだろうか。鉄道ファンには常識でも、一般的には意外に知られていないようである。

 日本に初めて路面鉄道が登場したのは、1882(明治15)年6月25日のこと。江戸時代が終わりを迎えてから、まだ15年しか経過していない頃である。この日本初の路面鉄道は、東京の新橋と日本橋の間を走るものだった。

 初めに掲げた写真は、新橋から銀座通りに向けて撮影したもので、日本初の路面鉄道の姿をとらえた貴重な史料である。なお、手前に見えるのは汐留川に架けられた新橋で、この時代はまだ木造だった。鉄橋となるのは、1899(明治32)年のことである。

【連載】古写真で知る幕末・明治の日本

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