レスリングの世界選手権男子に34年ぶりの金メダリストが誕生した。快挙に喜ぶ文田健一郎

レスリング世界選手権の男子グレコローマンスタイルの4階級がパリで行われ、59キロ級決勝で、文田健一郎(21、日体大)がミランべク・アイナグロフ(カザフスタン)を2-1の判定で破って初優勝した。男子の世界選手権での金メダル獲得は、1983年のグレコローマン57キロ級の江藤正基(自衛隊)以来、34年ぶりとなる快挙だ。

 猫のように柔らかに背中をしならせる反り投げが得意だ。1日のうち3分の2は眠っている猫を愛するからでもないだろうが、グレコローマン58kg級で34年ぶりとなる日本人世界チャンピオンになった文田は、実によく眠る。寝付きもよいし、時差ボケをしたこともない。最長で15時間も寝たこともある。世界選手権のためにパリへ到着してからも、試合前日も、ずっとよく眠れていた。ところが、決勝戦まであと数時間後のタイミングで、恒例の昼寝をしようとしたら「なんだか眠れなかった」という。

 いつもの昼寝ができないのは少しひっかかったが、「昂ぶってるな」と思うだけで深く気にとめず、次にやるべきことだけに集中し、決勝戦へ挑んだ。反り投げを警戒するアイナグロフの低い姿勢に悩まされながらも、慌てず対処して積極性を忘れず2-1の判定勝ちをおさめ、初出場の世界選手権で、世界一の座につくことができた。

「グレコローマンのいいところをもっと見せたかったから、できれば決勝でも反り投げをしたかった。でも、今日は勝つことが一番大事でした。だから、世界チャンピオンになってあらためて、年末の全日本選手権で忍先輩と試合できるのが楽しみです」

 文田がいう忍先輩とは、昨年のリオデジャネイロ五輪で同階級の銀メダリストとなった太田忍(ALSOK)のことだ。約2ヶ月前の6月18日、なかなか超えられない壁だった太田に明治杯で勝利し優勝したことで、文田は初めての世界選手権出場を決めた。

 このときの決勝戦前は、「いつもの昼寝」が効果的に働いた。辛勝した準決勝の様子と打って変わって積極的に攻め続け、得点を重ねる文田に戻っていたのだ。当時、20分間の睡眠が、いかに効果的なものかということを語っている。

「周囲の同級生から『どこか調子が悪いの?』と訊かれるくらい、準決勝では足が動いていませんでした。そこで、タイマーをセットして、20分だけ寝たんです。高校時代からやっていることなのですが、寝ると気持ちが切り替わるんです。スイッチを一回切って、入れ直したような感じになります。体の力を全部、抜ききって、次に自分がやるべきことに集中しやすくなります」