20世紀建築の巨匠ル・コルビュジエの建築作品のひとつとして世界遺産に登録された国立西洋美術館。同じ東京上野公園内には、日本を代表するクラシック音楽のホールとして知られる東京文化会館があります。

 東京文化会館の造形が持つ力とそれを手がけた建築家前川國男の時代を、建築家であり、多数の建築と文学に関する著書でも知られる名古屋工業大学名誉教授、若山滋さんが執筆します。


上野の顔

エントランス

 JR上野駅の公園口を出て正面、一風変わった建物が迎える。
 天に向かって反り返った庇をもつ打ち放しコンクリートの建築。いかにもル・コルビュジエの影響だ。

 東京文化会館である。大小二つの音楽ホールをもつ。

 設計者は前川國男。大学を卒業したあとフランスに渡り、ル・コルビュジエの事務所で修行し、日本に帰って、以前この連載で取り上げたアントニン・レーモンドの事務所で修行した。

 外観も密度高くデザインされているが、中に入っても、基本的な空間構造から隅々の詳細まで緻密な存在感がある。師のレーモンドはこれを「前川國男の交響曲」と評した。その立地からも上野公園の顔となっているが、角を曲がった向かい側には、前回取り上げた国立西洋美術館(前川が設計をアシストした)が建つ。

打ち放しとクラシック

 この時代、打ち放しコンクリートは「まるで工事中のようだ」といわれ、評判が悪かった。

 ましてやクラシック音楽(西洋音楽)の会場ともなれば、ドレスアップした女性客も多く、空間に豪華さが求められる。打ち放しコンクリートの野性味と前衛性はその要求に合わない。現在のように打設面を綺麗に仕上げる技術が一般化した時代ではなく、設計者も、施工者も、相当の苦心があったものと思われる。

 この問題をクリアしたのは、丁寧に設計された造形密度である。
 コンクリートの野性味と前衛性はル・コルビュジエの影響、その細部の丁寧な造形はレーモンドの影響といっていいかもしれない。つまり設計者の前川をつうじて、二人の外国人建築家のDNAがこの建築に流れ込んでいるのだ。