地球は46億年前に誕生し、生命は約40億年前に生まれたといわれています。その長い歴史を振り返るとき、古生代や中生代といった生物進化を区分するときに欠かせないのが地質年代表です。

 こうした地質年代はどのように埋められていき、それぞれの生物がいた年代を特定していったのでしょうか。古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が説明します。


【連載】北米アラバマより“生物40億年のメッセージ”

最新版の地質年代表

現在使われている地質年代表(International Commission of Stratigraphyより)。こうした年代区分はいつ頃どのようにして考案されたのだうか?

 「はじめに言葉ありき」 ── 旧約聖書の有名な冒頭のフレーズ。この地球と全ての生物は、わずか「数千年前」に神によって創造されたとされている。天地創造からアダムの出現(=人類の誕生)までにかかった時間は、はっきり「6日間」そして「1日は24時間」と記されている。しかし21世紀の今日、地質学・古生物の教科書を紐解くと、まるで異なる世界観が記述されている。地球はもとより最初の生物や三葉虫、恐竜など、(もちろん)言葉や言語が登場した時期より、はるかかなたの太古の昔に現れたことが、ほとんど事実として述べられている。

 「はじめに岩石ありき」 ── この地球が誕生したのは46億年前。そしてすぐに初期の海とともに生物の出現も起こった。今から約40億年前のことと推定されている。全ては岩石(及びそれに含まれる化石)における証拠にもとづいている。

 この大きな地質年代に関するアイデア及びコンセプトの違いは非常に大きい。例えば地動説vs天動説、そして創造説vs進化論。またはサッカーvsラグビー、そして鉄火巻きvsカリフォルニア・ロールも(個人的な好みとして)加えておこう。歴史上、人類はいくつもの大きなコンセプトの変遷、そして文字通り進化を繰り返してきた。それまで常識とされてきたものを大きく覆すその瞬間。そしてその過程において、無数の試行錯誤や喧騒、そして大論争が起こった。時には(多くの)血も流されさえした。

 今回は現在使われている「地質年代」が生み出された歴史的な過程に焦点をあててみたい。この連載のタイトルは「生物40億年のメッセージ」だ。この40億年という数値は、歴史上、サイエンティストがどのようにして、いつ頃具体的にたどり着いたのだろうか? そして細かな時代区分は、どのようにして生み出されたのだろうか? この素朴な問いかけに迫ってみたい。

 先ず現在地質学者や古生物学者に広く採用されている地質年代表をここに紹介しておく。

-Geological Society of America(略してGSA)編:https://www.geosociety.org/GSA/EducationCareers/GeologicTime_Scale/GSA/timescale/home.aspx

-International Commission of Stratigraphy(国際層序委員会:略してICS)編:http://www.stratigraphy.org/index.php/ics-chart-timescale

 GSAのものは2012年に改変されている。2017年8月現在において、最新のバージョンだ。一方ICSのものは2013年9月にアップデートされている。これはどういうことか? 実は大まかな地質年代の区分は、(私の知る限り)最近何十年と同じものが頻繁に使われてきた。新しい年代区分の名前は、とりあえずこの新バージョンにおいては見られない。例えばJurassic Period(ジュラ紀)やHolocene Epoch(完新世)などは、標準としてよく使われている年代区分だ。今から「ジュラ咳痰(せきたん)デ本(ぼん)紀」などいう、かなり(我ながら)いい加減な時代区分の名称を提案したところで、採用されるスペースはもう残されていないのが現実だ。

 しかし、細かな年代区分における数値は、まだまだ研究の余地が残されている。具体的な例をあげてみよう。恐竜が滅んだとされる白亜紀(及び中生代)末の年代が挙げられよう。文献やネットの記事など注意比べてみてみると、6600万年前、6550万年前、6000万年前など異なる数字が見つかるはずだ。これはどうした訳だろうか?

 研究者によって細かな意見の違いが出てくるためだ。少し異なるタイプのデータを使っていることはよくある。異なるサンプルを用いている可能性もかなり高い。そしてデータ解析を行う時にも、いくらかの誤差がでてきてもおかしくない。

 こうした年代区分の数値(注:何千万年から何億年前という単位だ)におけるギャップは、特に先カンブリア代など古い時代にさかのぼるほど、より顕著といえる。使われるデータにも限りがあり、年代測定においてかなりの「誤差」もでてくるからだ。

 あえて誤解を恐れずいわせてもらう。今我々が使っている地質年代表も、まだまだ「改ざんの余地が(いくらか)残されている」ということだ。特に古い時代、具体的な数値ほど、研究者は今この時点においても、盛んな研究を行っている。そのため2-3年ごとに新しいバージョンへと衣替えをさせてやる必要がでてくる。

 基本的にはより新しいバージョンが、より信憑性がある(はずだ)と考えられる。その真意はその道の専門家の方達に、ここではとりあえずゆずっておきたい。ただ、サイエンスの大きな特徴の一つとして、データや知識の「継続的な蓄積」が挙げられる。歴史を通して我々の知識は、雪だるま式に増え続けてきた。基本的により新しいものが「最も信頼できる」という前提がある。この建前のようなものは、後述するが地質年代というコンセプトにおいて鍵となる。初期の近代地質学者達の悪戦苦闘を知ることは、地質年代表に概要を理解し、深い理解を得るために、無視して素通りできない。