試合直後の会見で意味深な発言を残し一方的に切り上げたハリルホジッチ監督。翌日には続投を表明した。(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 憔悴した表情を浮かべていた前夜とは、放つ雰囲気が明らかに異なっている。自信と野望に満ちあふれ、舌鋒鋭くフランス語を操る攻撃的な姿勢が、時間の経過とともにヒートアップしてくる。

 さいたま市内のホテルで1日午後6時から急きょ行われた記者会見。ひな壇には日本サッカー協会の田嶋幸三会長と、6大会連続6度目のワールドカップ出場を決めた日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督が座っている。

「昨日の試合後の会見のことを、申し訳なく思っている。素晴らしいゲームの後のお祝いムードに、水を差すようなことはしたくなかった」

 冒頭でいきなり頭を下げた指揮官はその後、質疑応答に移るまで約20分間、一気にまくし立てた。通訳を介するから話している時間は半分ほどになるが、それでもすさまじいエネルギーがまき散らされた。

 前夜は大胆かつ積極的な若手の起用とシステム変更で、ワールドカップ予選で過去未勝利だった難敵・オーストラリア代表を2‐0で一蹴。来年のロシア大会行きの切符を手にした直後の晴れ舞台となるはずの公式会見はしかし、異例となる8分ほどの短さで終了していた。

「実はプライベートで大きな問題があった。そのことで、私はこの試合の前に帰国しようと思っていた」

 キャプテンのMF長谷部誠(フランクフルト)にしか打ち明けていなかった、サッカーとはまったく別次元の問題を抱えていたことを明らかにすると、辞意とも受け取れる言葉を残し、質疑応答を行うことなく埼玉スタジアム内の記者会見場を退室した。

「ジャーナリストの皆さんの全員ではないかもしれないが、私が早くここから出ていかないか、望んでいる方々もいらっしゃるかもしれない。もしかしたら残るかもしれないし、残らないかもしれない」

 指揮官が口にした「ここ」とは、要は日本代表のこと。当然ながら試合後の取材エリアは騒然となった。そして、一夜明けた午前中にさいたま市内で行われた練習後に、ハリルホジッチ監督の記者会見が行われることがアナウンスされる。

 しかも、田嶋会長も同席するとなれば、風雲急を告げるかのような事態が伝わってくる。果たして、指揮官は辞任する意思は皆無であることを強調したうえで、「私のことを攻撃しているメディアがあることも耳に入っていた」と、異例の発言に至った舞台裏を自ら明かした。

「昨晩の発言は私を批判していた方々、私に敬意を払っていなかった方々、私の仕事を評価していなかった方々へ向けたものだった。チームが首位にいるときに批判されたこと、オーストラリア戦の結果次第で去らなければいけないと書かれたことを、私は攻撃と受け止めた」

 オーストラリアとの大一番を直前に控えて、一部スポーツ紙が「負ければ解任」と報じた。メンバーも発表され、いよいよムードが高まってくると「引き分けでも内容次第で解任」とさらに論調が強まった。

 深刻な病状を抱えた親族がいて、心を悩ませていたことは事実だという。勝利した安ど感。抜擢した22歳のFW浅野拓磨(シュツットガルト)、21歳のMF井手口陽介(ガンバ大阪)がゴールを決めた喜び。さまざまな思いが相まって、前夜は確かに感情が高ぶっていた。

 それでも、65歳となったいまではもう変えられないと、半ば自虐的に振り返ったこともある攻撃的な性格は、逆襲に転じられる機会を虎視眈々とうかがっていた。

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