地震予知を前提としていた「大震法」

 大震法は世界でも初めての地震立法です。地震が予知されて政府から「警戒宣言」が出されると、新幹線や高速道路は止められ、デパートやスーパーは閉店させられ、耐震性のない病院から患者が家に帰されるという仕組みです。私権を制限する大変に強い法律です。

 この法律は、正確な地震予知が前提になっています。その地震予知をするのは気象庁に置かれた「地震防災対策観測強化地域判定会」(判定会)で、パトカーの先導で東京・大手町の気象庁まで1時間以内に集まれる学者と気象庁の職員から組織されています。

 だが、この判定会が地震予知をしたことも一度もありません。もちろん、一度も警戒宣言が出されたこともないのです。そもそも、どんな前兆現象がどう出るのかという科学的な知見はないのです。地震予知を「前提」にするには、あまりに弱いものだったのです。

脅威は東海地震を含む南海トラフ地震へ

[図]日本付近のプレートの模式図(気象庁サイトより)

 大震法は、1976(昭和51)年にクローズアップされた東海地震の切迫性を受けて作られたもので、東海地震だけを対象にしています。ですが、その後、東海地震は起きていません。

 そして、現在では東海地震を含めて、静岡沖から九州沖までを震源とする「南海トラフ地震」が起きるのではないかということが恐れられています。つまり、その一部である東海地震が単独で起きることはないのではないか、いま恐れるべきは南海トラフ地震なのではないかと考えられているのです。

 南海トラフ地震は、フィリピン海プレートが西日本を載せているユーラシアプレートの地下に沈み込むことによって起こされる巨大地震です。プレートが動いていれば必ず起きる地震で、過去に10回ほど起きたことが知られています。

「大震法」の扱いは結論を先送り

 問題は、この委員会での議論の焦点の一つが「大震法」の扱いだったのですが、結論を先送りしてしまったことです。

 「地震予知ができない」としたときの政府の発表と同時に発表された「未練がましい言い訳」があります。「プレート間の固着状態が普段と異なる場合など、普段よりも地震の起きやすい状態となっていると判断することは可能」だというのが、それです。

 しかし、これはまやかしなのです。「地震は予知できない」という科学的な事実と違って、これは希望的な予測にすぎず、学問的にはあまりにも薄弱な「仮説」にすぎません。

 いくつかの例が挙げられていますが、その一つ、たとえば「南海トラフの東側で大地震が発生した」ときに、残りの西半分で続いて大地震が起きることを述べています。「南海トラフの震源域の東側でマグニチュード(M)8級の地震が発生した場合、連動して西側でもM8級が3日以内に発生する可能性は96回のうち10回と推定し、短時間で津波が到達する沿岸地域の住民には発生から3日程度の避難を促す」とあります。

 たしかに、フィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に潜り込むという同じメカニズムで繰り返されてきた南海トラフ地震の中では、いままで東南海地震(1944年)が起きたあとに南海地震(1946年)が起きたり、安政東海地震(1854年)の32時間あとに安政南海地震が起きた例があります。1944~1946年の地震では「3日以内」ではなく、約2年でした。

 だが、続発しなかった例の方が圧倒的に多いし、そもそも、委員会が言っている「96回のうち10回」とは、1900年以来に起きた地震を世界中で数えているものなのです。しかも、南海トラフ地震のような海溝型地震ではなくて、起きる場所もメカニズムもまったく異なる内陸直下型地震も含めています。それゆえ、「次の」南海トラフ地震にあてはまるかどうかは未知数なのです。

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