政府による紋切り型の答弁、パフォーマンス色の強い野党の追及、浪費される審議時間――。日本の「国会」のイメージを聞かれれば、こうしたシーンを思い浮かべる人も多いかもしれません。国会審議が有効に機能している、と実感している国民は、どれほどいるでしょうか。しかし、今、私たちが目にしている国会の姿は、歴史的な観点からも、国際比較の観点からも、国会の唯一のあり方ではありません。本来、国会とはどのような役割が期待される存在なのでしょうか。

【第2回討論会】日本は既に実質的な憲法改正を経験?「平成の統治機構改革」が意味するもの

[写真] 「国会をアクティベートさせるには?」をテーマに討論した第3回の「憲法について議論しよう!」(写真撮影:Yahoo! JAPAN公式カメラ隊・広瀬美咲)

 今年2月から開催されている憲法討論イベント「憲法について議論しよう!」では、1990年代に始まった選挙制度改革と、いわゆる「平成の統治機構改革」とその影響について振り返ってきました。第3回の今回は「国会をアクティベートさせるには?」をテーマに、憲法学や政治学の専門家が国会審議を活性化するための方法を探りました。

 当日は、学習院大学法学部政治学科の野中尚人教授が「与党議員不在の国会の課題」について、九州大学法学研究院の赤坂幸一准教授が「国会における野党の権限拡充」について、一橋大学法学研究科の只野雅人教授が「参議院のあり方」について、それぞれプレゼンテーションを行いました。その後、京都大学大学院法学研究科の曽我部真裕教授がモデレーターを務め、イベントを主催したヤフー株式会社の別所直哉執行役員も議論に参加し、全体ディスカッションを行いました。(赤坂准教授はビデオ出演)

 洋の東西を問わず、とかく議会は国民から不満を持たれがちだといわれます。日本の国会には、どのような特徴と課題があるのでしょうか。

国会で役割を果たせない「与党」議員

[写真]戦後の国会が進めた「合理化」の結果、与党が国会から排除されたと語る野中教授(写真撮影:Yahoo! JAPAN公式カメラ隊・広瀬美咲)

 日本の国会の特殊性を象徴するものとして、野中教授は“5.0%”という数字を紹介しました。

 これは、国会での与党議員による1人あたりの発言量に関するデータです。2005年衆院選後の国会審議において、共産党議員の発言量を“100”とした場合、与党自民党議員の発言量はそのわずか5%しかないことを示すものです。これは自民党特有の傾向ではなく、民主党が政権を握っていた国会審議でも、与党となった民主党議員の発言量は激減し、同程度の数字でした。

 ここから見えることは、政権を握ると与党議員(閣僚、副大臣、大臣政務官などとして政府に入っていない一般議員)は、国会でほとんど発言していないという事実です。野中教授は、与野党の議員が直接議論を戦わせる場面が用意されているヨーロッパの議会関係者から見ると、与党が「脱出し」た日本の国会の状況は奇異なものと映るといいます。

 このような国会の特徴の背景にあるのは、戦後日本の国会が直面する制約条件の下で「合理化」を進めてきた結果であると野中教授は指摘します。制約条件とはすなわち、国会での政府の権能がほとんど完全に排除されていること、野党に有利な国会審議(質問時間の野党への重点配分等)、内閣の国会審議に対する権限の弱さ、与党自民党の分権的なガバナンスなどであり、政府による立法プロセスの統制は困難であったといえます。

 こうした制約を乗り越え、政府が安定的かつ速やかに法案を成立させていくために進めた「合理化」とは、本来、国会で行うべき審議・審査機能などを「国会の外」に出してしまうというものでした。つまり、与党内部での事前審査プロセスや、より非公式な与党内の派閥間の調整等の国会以外での議論によって実質的な政治決着を図るというものです。

 「国会の外」で政策が決まっていく代表的な仕組みが、「55年体制」における「与党事前審査」です。

 この与党の事前審査制度は、過去の憲法討論イベントでも議論になりました。与党が法案の国会提出前に法案の内容を承認する政治的慣習で、1955年に55年体制が確立されて以降、長く与党であり続けた自民党政権下で定着してきたものです。

 野中教授は、90年代からの一連の「平成の統治機構改革」によって、選挙制度は中選挙区から小選挙区中心に変わり、首相がリーダーシップを発揮しやすいように内閣機能強化などが図られたことで、この状況は変化を遂げてきたといいます。例えば現在の安倍内閣では、与党議員や官僚に対する強力な人事権を背景に、官邸主導で政策決定する体制が築かれつつあります。事前審査自体は現在も存在しますが、いわば骨抜き状態で、「事実上、官邸がコントロールする力をかなり得ている」のが現状です。つまり、与党による法案への国会前の段階での関与は実質的にかなり弱められていることになります。

 しかし他方で、法案が国会に提出されてから以降は、与党議員の出番はほとんどありません。結局、与党平議員の役割は極端に弱まっていることになります。

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