古生物の生きた証、化石。中でも多いのは、足跡化石です。しかし、せっかく見つかったその“足跡”を残したのはどういう生物なのか、正体不明であることも多いという事実をご存知でしょうか。

 そして、陸生生物の骨格化石記録が、極端に乏しい時期の足跡化石は、大量に見つかっているという謎……。これはいったい何を意味しているのでしょう。

 古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が、足跡化石研究について報告します。


最も多い化石は何?生きた証し「生痕化石」が導くことー足跡化石の謎(上)

化石記録における足跡

アラバマ州北部・石炭紀の地層(約3.1億年前)から見つかったAttenosaurusの足跡化石。こうした足跡化石は大量に見つかることがある。しかしそこには大きな謎やジレンマが伴うことも多い。(2016年:著者撮影)

 前回、生痕化石の大まかな概要について紹介した。今回(と次の回)も引き続きこのテーマ ── 特に「足跡の化石」 ── をテーマに話をすすめてみたい。前回の記事を見逃した方は、こちら を参照。

 -https://thepage.jp/detail/20170915-00000002-wordleaf

 さて2010年以来、私が住んでいるアメリカ南東部に位置するアラバマ州。ここには炭鉱地がいくつかあり、たくさんの良質の石炭がみつかる。日本に住んでいる方にとっては「どうでもいい」事実として響くかもしれない。しかしこうした炭鉱地からは、たくさんの石炭紀の植物化石とともに、時々、「陸生脊椎動物の足跡化石」が見つかる。石炭紀の脊椎動物の生痕化石は、(後述するように)世界的に見回してもなかなか希少価値があり、サイエンス的にも貴重だ。

 -いくつかの写真や大まかな情報は以下二つのサイトを参照。(今後、機会があればこのテーマについてまた取り上げてみたい。)

 -“Footprints in Stone ” by Ron Buta (2016)
 -“The Alabama Paleontological Society

 一連のアラバマ州の足跡化石は、石炭紀後半(=ペンシルバニア紀)の地層(The Pottsville Formation)から産出されたものだ。こうした化石を含む地層は「約3.11億年前」と推定されている。「ペンシルバニア紀のはじまり」の時代にあたる。くわしい年代に興味のある方、是非、地質年代表 で確認していただきたい。(注:以前にこちらの記事 において、地質年代の大まかな概要についてまとめてみた。)

 -https://thepage.jp/detail/20170831-00000005-wordleaf

 石炭紀は、陸生脊椎動物の進化において、非常に興味深い時代だ。化石記録によると、魚類の仲間が初めて陸地に進出したのは、その少し前 ── デボン紀最後期(末期) ── だったと推定されている。今から約3.5億年から3.7億年前の間、ティクターリク(Tiktaakik)やイクチオステガ(Ichthyostega)など両生類の祖先 にあたる種がはじめて出現した(Lu等2015 参照)。

 -イクチオステガのイメージや解説(英語)は以下のサイト参照:
  「Tree of Life」 http://tolweb.org/Ichthyostega
  「Devonian Times」 http://www.devoniantimes.org/Order/re-ichthyostega.html
 -Lu, Jing, et al. (2015) “The earliest known stem-tetrapod from the Lower Devonian of China” Nature Communications 3, 1160. doi:10.1038/ncomms2170

 こうした動物の骨格化石は、ヒレが手足に変わり、エラから肺への進化、そして頭骨と肩の骨がはっきり分かれたおかげで可能になった「自由に動く首」の獲得など、一連のマクロ進化上の「一大ストーリー」を、我々に披露してくれる。こうした解剖学上の形態は、陸上での生活に欠かせない。(こうした進化上の幸運なくして、我々は立ち食い蕎麦をすすり、スマホの画面を5本の指で器用に操ることなど、不可能だったはずだ。)

 そして、すぐ次の石炭紀に、陸生脊椎動物はかなりの多様性を遂げたようだ。まず様々な両生類の仲間の出現。そしてより陸地の生活に適応した原始的な爬虫類の仲間、哺乳類系統の遠い祖先(のような)グループ等が、主に骨格化石によって知られているからだ。こうした骨格の化石は、特に「石炭紀の後半」から「次の時代(ペルム紀)」において、より顕著だ。

 そのため、石炭紀前半は、デボン紀の「最も古い陸生脊椎動物の仲間」(=半水生・半陸生の生活者)と、より先進的な「両生類・原始的な爬虫類・哺乳類の遠い祖先」(=ほぼ完全な陸地対応型の生活者)のようなグループ ── この二者をつなぐための非常に興味深い時代といえる。

 しかしどういうわけだろう。石炭紀前半 ── 特に3.60億年前からその後、約1400万年の長い間 ── は、世界的に陸生生物の骨格の化石記録が極端に乏しい。そのため陸地に適応を遂げた、初期の詳細な進化プロセスにおいて、たくさんの謎が残されている。ちなみにこの化石記録が極端に少ない期間は、20世紀中頃活躍したハーバード大学の古生物学者Alfred Romer博士にちなんで、「ローマーのギャップ 」(Romer's Gap)と呼ばれている。

 骨格のようなボディー化石が極端に乏しい、陸生脊椎動物の進化上、謎に満ちた石炭紀前期の1400万年間。しかし、先述したアラバマ州から何千という非常にたくさんの足跡化石が、この陸生脊椎動物の進化上、興味深い時代から見つかる(「ローマーのギャップ」直後の時代だ)。実に膨大な数の多種多様な足跡の化石に我々は直面する。

 足跡の形態の多様性だけでなく、そのサイズも大小様々だ。こうした事実は、石炭紀の陸生脊椎動物、特に両性類、初期爬虫類、そしてその中間のグループなどが、すでに「かなりの多様性を遂げていた」事実を示していることに他ならない。(しかし、この「ローマーのギャップ」の間、何が起きたのだろうか? この時代にしぼった新たな研究が待たれる。)

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