8000万を超える人口を抱え、世界第4位のGDPを誇るドイツ。筆者は8月前半にドイツと周辺国に2週間滞在し、「ヨーロッパ」の枠を超えて存在感を高めるドイツの現在や、ドイツの周辺国で日増しに高まるロシアの脅威に対する警戒感について、多くの市民やジャーナリスト、大学教授らから話を聞いた。ヨーロッパ地域における事実上のリーダーとなったドイツは今後どのような国へと変わっていくのか。また、周辺国やロシア、アメリカといった国々との関係に変化は生じるのか。外交、経済、難民問題、EUにおける立ち位置などから、大国ドイツの現在に目を向けてみる。全5回となる連載の4回目は、現在投票が行われているドイツ総選挙についてだ。

【写真】右派政党が過激な「反イスラム」選挙ポスター ドイツ揺るがす難民問題

若者からも支持集めるメルケル首相

[写真]「ムティー(母さん)」と呼ばれ、若者からの支持も集めるメルケル首相(ロイター/アフロ)

 ドイツ国内外で注目を集める24日の総選挙。現地では投票がすでに始まっており、選挙結果が判明するまでにそれほど時間はかからない。ドイツの連邦議会選挙は日本の衆議院選挙と同じ小選挙区制となっており、有権者は投票用紙の中から、地元の候補者を1人、支持する政党を1党選んで投票する。昨年のイギリス国民投票やアメリカ大統領選挙の例を挙げて、支持率調査の結果だけでは選挙の結果を占うのは難しいという指摘も少なくないが、複数の世論調査機関はメルケル首相が所属するキリスト教民主同盟(CDU)の支持率を34パーセント前後で発表しており、野党の社会民主党(SPD)の支持率は21パーセント前後を推移したままだ。CDUが第一党を維持するのはほぼ間違いないだろう。

 ドイツ語で母親を意味するフォーマルな言葉は「ムター」だが、ドイツ人の会話を聞いていると、子供は母親を「ママ」と呼び、大人になると母親をくだけた言い方で「ムティー」と呼ぶことが多い。本連載の1回目でアンゲラ・メルケル首相が「ドイツの母」と呼ばれていることについて触れたが、彼女を母と呼ぶ際に使われている言葉は「ムティー」の方で、どちらかといえば「母さん」や「おふくろ」といったニュアンスが強い。ドイツの母親と称され、12年にわたって首相を務めてきたメルケルが政権4期目をスタートさせることは、事前の支持率考査などを見ても半ば既定路線となっているが、興味深いことに「ムティー」を支持する層の多くが若い有権者たちだ。

 筆者がベルリンで話を聞いた大学生のグループは、EUの方向性や難民受け入れを支持していると前置きした上で、メルケル首相やCDUを応援する理由について、ドイツを引っ張る「強い母さん」というイメージの影響が大きいと語った。グループの中の1人が、彼女自身が抱くメルケル像について話す。

「この数年で世界情勢が大きく変わりましたよね。トランプ政権誕生後、ドイツは同盟国としてのアメリカに対して、間違いなく距離を置いています。ウクライナ問題によってロシアの台頭がさらに懸念されることになりましたし、数年後にはイギリスもEUから離脱します。ドイツの外で発生する様々な変化に対応できるのはメルケル首相しかいません。難民の受け入れや環境問題、異文化共生社会などに関する彼女の見解を現実的ではないという批判があるのも事実ですが、国のリーダーには理想に基づいたビジョンがあって当然ではないでしょうか」

 保守政党に所属し、首相を12年も務めていれば、若い有権者からは敬遠されがちな存在になりそうだが、ドイツでは少し事情が異なるようだ。ベルリンにあるフォルサ研究所が発表した最新の調査結果によると、今回の選挙で初めて投票する有権者(その多くは若者と考えられる)の57パーセントがメルケル首相の続投を望んでおり、社会民主党のマルティン・シュルツ党首が首相の座につくべきと答えたのは21パーセントにすぎなかった。

 ドイツには約6000万人の有権者がいるが、日本同様に高齢化が進んでおり、18歳から30歳までの有権者は全体の15パーセントほどだ。また、多くの国と同じく、ドイツでも若い有権者の投票率は上の世代のものよりも低い傾向にある。若い世代の思いが投票にどれだけ反映されるのかは不透明だ。しかし、通常ならば長年にわたる保守政権に嫌気がさし、若い有権者の票が左派政党に流れてもおかしくないのだが(アメリカやフランスでは振り子のように、若い有権者の間で支持政党が変わる)、ポピュリスト型政治家ではないメルケルが今も多くの若い有権者の間で人気がある現状は興味深い。