冷やして固めたおきゅうとに破れや形の不ぞろいがないかチェック(撮影:秋吉真由美)

 ぷるぷるとした小判型に薄くのばされた食べ物、これは何? 正解は福岡・博多の郷土料理“おきゅうと”だ。短冊状に切って小皿に盛り、好みでネギやしょうがをのせて、しょう油やポン酢をかけて味わう。ほのかな磯の香りにさっぱりとした味わいは、飽きがこず、食欲のない朝もペロリとたいらげてしまう。食卓の名脇役といってもいいだろう。スーパーでは1パック2~3枚入って数百円。博多っ子の忙しい朝の一品もしくは、晩ご飯のおかず、そして居酒屋ではつまみの一品として季節を問わず食べられている。

 博多で愛されている“おきゅうと”は、地元以外でなぜか知名度が低い。博多を代表する食べ物ではあるものの、お土産品として売られているわけではないからなのか。地元のスーパーや海産物店には置かれているが、それではなかなか観光客の目には留まらない。

 市内、もしくは県内不出の隠れた名産品というべきか。見た目はこんにゃくのようでもあり、ところてんのようにも映る謎めいた食べ物“おきゅうと”。知名度アップを目指して、地元で90年以上も前からおきゅうとを製造販売している商店に潜入し、その魅力を再確認してきた。

“おきゅうと”……君の名は。

ネギやショウガをのせ、しょう油やポン酢をかけて食べる博多の郷土料理「おきゅうと」(撮影:秋吉真由美)

 江戸時代の書物「筑前国産物帳」に“うけうと”と表記されているなど、おきゅうとの歴史は古い。その名の由来は、飢饉の際に非常食とされ、人々を救ったことから「救人(きゅうと)」、原料であるエゴ草の成長がウドのように速いことから「沖のウド」、漁師の食べ物であったことから「沖人(おきうと)」など諸説ある。
 
 そのおきゅうとを一筋に90年超、大正14年(1923年)創業の「箱崎おきゅうと 林隆三商店」は、博多どんたくや博多祇園山笠と並ぶ博多三大祭りの一つ「放生会」でにぎわう福岡市東区箱崎にある神社「筥崎宮」近くにある。近所の子どもが走る足音と笑い声が聞こえてくる、そんな博多の下町に店を構える。

おきゅうとにまつわる、小さな誤解「博多の人は優しい」

原料となるエゴ草 「これを乾燥させて真っ白になったら使う」と晃弘社長(撮影:秋吉真由美)

 おきゅうとは、日本海側でしか採れないエゴ草とイギスという海藻からつくられる。

 「創業当時は、漁師町だった箱崎周辺の浜でもエゴ草が採れていたので、家庭でのおきゅうとづくりが盛んでした」と話すのは、3代目社長の林晃弘さんの姉で一緒に切り盛りする佐藤美木子さん。

 当時は一般家庭の軒先で、小判型のおきゅうとを細く巻いて詰めた木箱を並べて売ったり、アサリと一緒にリヤカーで行商する人の姿も多く見られたという。早朝にリヤカーを引きながら、「おきゅうとばーい、おきゅうとばーい」と客を呼ぶ売子の声に、旅行者は「博多の人は優しい。起きるとばーい、起きるとばーい、と毎朝起こしてくれる」と感激したという話は有名だ。

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