モデルボクサー高野(右)は吉田(左)の突進戦法に苦しんだ。(写真・山口裕朗)

新しく創設されたプロボクシング、日本女子タイトルのバンタム級王座決定戦が6日、後楽園ホールで行われ、9頭身のモデルボクサーとして話題を集めてきた元東洋王者で同級1位の高野人母美(30、協栄)が0-3の判定で敗れ、記念すべき初代王者に輝いたのは、“シングルマザーボクサー”の同級2位、吉田実代(29、EBISU K’sBOX)だった。吉田の捨て身のインファイトに、高野は長所を殺され、クリンチで動きを止めるのに精一杯。最後の最後まで空回りした。高野は、試合後「リベンジをしたい」と現役続行に意欲を見せた。初代王者、吉田の戦績は9戦8勝1敗、高野は13戦10勝(7KO)3敗。

初代日本女子バンタム級王者となった吉田は愛娘を抱えあげた(写真・山口裕朗)

 モデルボクサーは後楽園の3階観客席から登場した。

 先頭には歌手のブラザー・コーンさんがワイヤレスマイクを持ってヒット曲「WON’T BE LONG」の生歌を披露しながらのど派手な登場である。真っ白なロングガウンの背中には「原点を思い返す」の意味を込めて、恩師である最初に入門したジムの会長の名前「山上哲也」と書かれている。銀色に髪を染め、前日の計量では竜を踏みつける黒ヒョウを背中一面にあしらったタトゥー姿を披露。JBCが女子プロを認可して10年目にして、5階級の日本女子タイトルが新設されることになったが、その第1号となる初代バンタム級王座決定戦は、まるで赤コーナーに立った高野のためにセッティングされたようなムードがあった。

 だが、ゴングが鳴ると、様相は一変した。
 ボクサーファイターだった吉田が頭を低く下げて突進。果敢なブルファイターに変身してきたのである。高野とのリーチ差を埋めるため、右のフックを放つと同時に頭から高野の懐に飛び込む。体を密着させると、右フックをねじこみ、レバーを連打した。まるで喧嘩パンチである。高野は長い手を絡めたクリンチで、それを阻止しようとするが、くんずほぐれずの肉弾戦は、元総合格闘家の吉田にしてみれば“スタンディングレスリング”のような展開で慣れたものだ。

「あごを引いて、クイックショートを打つ。インファイトをしたことはなかったが、インファイトをするしか勝てないと思った。クリンチはやってくると思っていた。フィジカルには自信があったので」

 突貫ファイターへの対策は、ジャブで付き突き放すか、至近距離のアッパーなどのカウンターでインサイドで迎え打つしかない。それができないならば、マタドールのようにサイドに動き、いなさねばならない。
 2ラウンドには高野の右フックがカウンターになってヒットした。だが、3ラウンドから徐々に高野は最悪の選択をした。吉田の迫力に恐怖感を抱いたのかのようにジリジリと後ろへ下がったのである。

 せっかくのアッパーや左右フックも下がって打てば効き目は半減する。

「(やりづらさは)想定以上。あまりにも頭が低くすぎてパンチが頭にあたっちゃう。ジャブをもっと出せばよかったんですが。来たところにカウンターを狙っていたんですが」
 
 しかも、力んだ左右のフックは大ぶりになって、空回りした。

 工夫のない高野とは逆に、吉田はその戦略を最初から最後まで徹底した。飛び込んで右が当たる度に大応援団が歓声を挙げてくれるので、それが彼女の勇気を奮い立たせる追い風にもなった。

 最終ラウンド。意を決して高野が勝負に出た。
「ラストは殴りあうことを楽しんでやっていました」
 だが、6ラウンドのほとんどをクリンチに費やした高野は、もう消耗しきっていた。
 やがてゴング。判定を待つ間、高野は、「まずいなという感触はあった。3、4、5ラウンドとパンチをもらっていて、こっちは手を出していなかったので」と、敗戦を覚悟し、吉田は「勝っていると思った。負けてはいない、大丈夫!」と、勝利を確信していた。
 ジャッジの3者は揃って38-37の1ポイント差で吉田を支持した。共に決定打はなく、5ラウンドが2者が「10-10」とつけ、最終回も一者が「10-10」とつけるほどの展開だったが、最終的には吉田の攻勢点と手数が勝敗を分けた。

 協栄の金平会長も「効果打をもっと取ってもらっても……と思ったりもしたが、(判定は)こんな感じですかね。とにかく噛み合わなかった。作戦負け」と、ジャッジを素直に受け入れた。

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