写真はイメージ、提供:アフロ

 ここ数年、企業の内部留保に課税するとの案が取り沙汰されていますが、企業が保有する現預金が過去最大となるなかで、再びそうした議論が過熱してきました。稼ぎだした利益を、給料や設備投資や配当に回さず、ただ溜め込んでいるならば、課税というある種のペナルティーを設けることで、少しでも世の中におカネが出回るようにしようという狙いがあります。

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「内部留保」の定義とは?

企業が保有する現預金

 一見すると狙いそのものは良さそうですが、実のところ内部留保に課税というのはとても奇妙な話なのです。にもかかわらず、こうした「内部留保課税」という言葉が飛び交っているのはその意味を誤解している人が相当数存在することを浮き彫りにしています。効果の有無を検討する前に、先ずは基本的な「用語」を確認する必要がありそうです。

 まず「内部留保」という言葉に正式な定義は存在しません。そのうえで敢えて定義するならば、企業がこれまで積み上げてきた利益のうち、配当などで社外流出しなかった分の合計額です。つまり黒字企業が、ある期に稼いだ利益を全額配当に回さなかった場合、残った利益の部分が「内部留保」であり、またこれを蓄積したものも同じく「内部留保」と称されています。ここで言及した内部留保は貸借対照表の「利益剰余金」(厳密には資本剰余金等も内包していることが多い)を指しているのですが、世間一般では、内部留保と表現した方が馴染みやすいためか、この言葉が一般的になっています。要するに内部留保とは利益剰余金の通称のような位置づけです。

 ここで「日本企業の内部留保は約400兆円で過去最大。これ以上、内部留保を積上げるのはけしからん。もっと給料や設備投資や配当に回すべき」という批判を冷静に考えてみましょう。くどいですが、ここで言う内部留保とは利益剰余金のことです。すると、おかしなことに気づくはずです。内部留保を積み上げることは、利益を計上することと同義ですから、それを否定するのは極端な話「赤字経営をしなさい」と言っていることに等しくなります。

 おそらく、そうした発言をしている人が本来意図していたのは「現金を溜め込むのではなく、もっと積極的に設備投資や賃金や配当に回しさない」といった趣旨の指摘だと思われます。つまり「内部留保」と「現金」を混同しているわけです。社会的に影響力がある人の中にも「内部留保=現金」と誤解している(と思われる)方が相当数存在していますから注意が必要です。利益剰余金は帳簿上に計上されている純資産(の一種)で、それは企業が今の時点で保有している現金の額とは根本的に異なります。極端な例として、利益剰余金が豊富にあっても手持ち現金が0円ということだってあり得るわけです。

 では次に「企業が現金を貯め込むのはけしからん」と正しく批判を展開したとしましょう。ですが、ここで一つ確認しておきたいことは「そもそも企業が本当に現金を貯め込んでいるのか?」という根本的な部分です。確かに法人企業統計で企業の保有現金を確認すると、直近の値は約200兆円と2008年から50%程度も増加し、過去最高を更新していますが、この表面的な数値をもって「貯め込んでいる」と言って良いのでしょうか?

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