取材に答える小林教授

 今回の衆院選では、これまでにないほど「奨学金」に関する政策が、各政党の公約に盛り込まれている。なぜ、ここまで注目されることになったのか、今の奨学金制度が掲げる課題とは──。教育社会学者で奨学金の問題に詳しい、小林雅之・東京大学大学総合教育研究センター教授に話を聞いた。

奨学金を借りた人が返せない状況になっている

 【現状の学生向け奨学金制度】
 日本学生支援機構の奨学金は、2017年度から一部実施している返済不要の給付型と、返済が必要な貸与型の2種類に分かれる。貸与型は有利子と無利子がある。給付型奨学金の本格実施は2018年度からだが、枠は財源が確保できず、学力などの基準をクリアした約2万人に限られている。2万人では、支援が必要とされる全非課税世帯の3分の1にしか行き渡っていない。無利子奨学金については、2017年度から非課税世帯の学力要件は撤廃された。

 ──今回の選挙で各党が前面に教育無償化と言い出しているのはなぜか

 今までの日本の奨学金制度は貸与型奨学金しかなかった。借りたら返さないといけない。しかし、雇用が不安定になり、大卒の3人に1人が3年で離職する状況だ。非正規の職に就く人も多い。昔のように安定的に返せる保証もない。だから、返済に困っている人がたくさん出てきている。そこが一番大きな問題だと思う。昔は借りる人が1割ぐらいだったが、今は大学生の2.8人に一人、4割ぐらいの人が借りている。全体として借りている人の割合が大きくなった。その中で当然返せない人が増えている。

 借りる金額も大きくなっている。有利子の奨学金は最大月額12万円まで借りられる。年間にすると144万円、4年間で560万、利子が入ると返済額は600万円とかになる。安定した就職先がないと返せない人が出てくるのは当然だ。

 ──想定以上に返せない人が増えてきて、切実な問題になったからこそ選挙でも争点になってきた
 
 それがひとつ。あとこれは推測だが、若い人たちを意識しているというのはあるだろう。18歳~20歳あたりの、一番費用がかさむところの年代の人の投票行動に影響するので。また、経済格差が拡大しているという点もある。リーマンショック以降、所得が低い人たちは進学が非常に大変になっている。進学ができないと、世代間で貧困の連鎖が起きる。それは非常にまずいので、連鎖を断ち切るためにも、奨学金が有効だろうということで注目されてきた。

 ──今の貸与型奨学金は1990年代の後半から借りる人が急に増えているが、格差是正には役立っていないのか

 一部は役立っている。それがなければ進学できなかった人は多い。進学機会を拡大するためには非常に役立った。ただ、拡大はしたけれど今度は返せない人が増えているという問題だ。貸与型奨学金だから、例えば、生活保護の人が目一杯借りると、非常に後の返済が大変なことになってしまう。格差そのものを直すところまではなかなか行っていない。格差是正の意味では貸与ではない奨学金、あるいはほかの仕組みが求められている。