2016年3月撮影:高橋邦典

 ネパールの首都カトマンズにあるダルバール広場。古いチベット仏教建造物の並ぶこの一角は、人気の観光名所でもある。2009年、僕が初めてストリート・チルドレンと遭遇したのがこの広場だった。

 やがて少年は路上生活を脱し、結婚して子供にも恵まれた。

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 まだ日が昇る前、クリシュナの部屋を訪れた。義父と一緒に早朝から仕事に出かけると言っていたからだ。裸電球の光の下でむくりと起き出した彼の姿を見て驚いた。肘から下にびっしりと包帯が巻かれ、手のひらにはまだ多くの血のりが残っている。

 包帯を外してみると、20センチほどに渡って割れた傷口から赤白い肉がむき出しになっていた。明らかに刃物で切られた深い傷だ。誰かと喧嘩になったのか、それとも自傷行為なのか、酔っ払っていて覚えていないという。恐らく酒とドラッグで、ぶっ飛んでいたのだろう。

フォトジャーナル<ネパールのストリートチルドレン>- 高橋邦典 第50回

2016年3月撮影:高橋邦典

 腕の怪我で義父の手伝いができなくなったクリシュナは、公園で野宿している若者たちを訪れた。少し前まで一緒に寝起きしていた仲間たちだ。乾いた草の上に腰を下ろして陽に当たっていると、サクティが地面に落ちていたグルー(接着ボンド)の空チューブをおもむろに口に入れた。

 スニータが慌ててそれをはたき落とすが、クリシュナは叱るどころか、気に留めるそぶりも見せない。一歳の息子がグルーを口に入れても気にならないとは……。

 「俺のようにストリートで暮らすようになって欲しくない」

 ほんの数日前、息子の将来について語った時のクリシュナの言葉が虚しく思い出された。

(2016年3月撮影)

※この記事はフォトジャーナル<ネパールのストリートチルドレン>- 高橋邦典 第50回」の一部を抜粋したものです。