[写真]2013年5月、円相場が100円台に突入し、4年ぶりの円安ドル高水準に(Natsuki Sakai/アフロ)

 2012年12月に第2次安倍政権が発足して以来、デフレからの脱却を目指して、安倍首相は「アベノミクス」と銘打った経済政策を推し進めてきました。「金融緩和」「財政出動」「成長戦略」を3本の矢を柱とするアベノミクスによって、円安・株高は進み、輸出産業などを中心とする大企業の業績は好転してきました。その後も国民総生産(GDP)600兆円の達成や介護離職ゼロなどを新しい3本の矢による「一億総活躍社会」などを掲げました。安倍政権は、名目GDPや企業収益、就業者数の増加などをアベノミクスの成果として挙げますが、アベノミクスの5年をどう捉えるか。岡山大学経済学部の釣 雅雄教授に2回にわたって振り返ってもらいました。2回目の今回は「円安」を中心にみます。

【図】《安倍政権5年》アベノミクスで雇用改善 背後にある日本経済の構造変化

円安進んだが輸出数量は増えず

 安倍首相の下でアベノミクスが始まった当初、為替レートは急激に円安となり、それに伴い株価が上昇しました。為替レートは、民主党政権化の2012年の秋ごろには1ドルが80円を下回る円高水準でしたが、2013年の5月ごろに100円程度となり、さらに2年後の2015年6月には直近で最安値の125.85円となりました。

 当初期待されたのは、円安による輸出産業の回復です。確かに、円安で企業業績は回復しましたが、2つの点で日本経済にとっては必ずしもプラスとはなりませんでした。一つは輸入価格の上昇で、もう一つは、輸出数量が増加しなかったことです。

[図]国・地域別の貿易指数(輸出、数量)

 図は財務省「貿易統計」の国別貿易指数のうち、数量の指標を為替レートとともに描いたものです(ここでは統計データの季節調整を行っています)。

 為替レートは2度、大幅に円安に動いています。まず2013年前後から始まる1回目をみると、米国、EU、中国への輸出数量はいずれもほとんど変化がなく、円安との関係はみられません。円安は輸出数量を増やさなかったのです。

 さらに2015年前後の2回目の時には、米国向けの輸出数量はむしろ減少となりました。EUへの輸出はやや増加しましたが、その後に円高方向へ戻った後も変わらず増加傾向が続きました。このことから、2度目の円安も輸出数量には影響しなかったと考えます。

 最近では、円高・円安にかかわらず、海外への輸出が回復しており、特に中国への輸出数量が増加傾向にあることが分かります。

 なぜ輸出数量が重要かというと、円安によって、金額としては輸出額が増えても、数量が増えなければ生産量が増加しないからです。生産量が増加しなければ人手は必要ないので、企業の利益が増加したとしても雇用への効果は限られます。日本全体では雇用増がみられるものの、製造業に限ればその伸びはほとんど見られず、雇用者数は2012年の1033万人から2016年の1045万人へと微増にとどまっています(「労働力調査」)。たとえば、少しさかのぼった2002年には1202万人という水準でしたから、この程度の増加では、中期的な減少傾向の歯止めとはいえるものではありません。

 では、なぜ最近になって輸出数量が増加しているのでしょうか。おそらくこれは海外経済の回復によるものです。逆のケースですが、たとえば、2011年から2013年にかけては、米国への輸出が減少していないのに対して、EUや中国への輸出は減少しました。この時期、EUはギリシャ危機などの債務危機が発生しており、景気が悪化していました。中国はEUへの輸出が多く、それが減少し、その影響で日本から中国への輸出も減少したのです。すなわち、輸出数量の変化は、海外経済の景気によるところが大きいのです。

 私たちは円安と日本の景気を結び付けて考えがちですが、実際にはそれほどの関係はありません。企業業績は上昇するものの、生産を必ずしも増やしません。一方で、輸入品価格が上昇し、例えば、円建てのエネルギー価格の上昇で電気代やガソリン代が上がってしまいます。このことは、名目賃金が上がらない中では、実質賃金が低下する原因になってしまいます。実質賃金は名目賃金を物価水準で割った値のことで、簡単に言うと、その賃金でどの程度財・サービスを購入できるかの量の指標です。物価高の生活への影響を捉えているともいえます。

 円安の主な原因は米国の金利上昇ですが、日本銀行が金利を低く抑えていることも影響しています。金融緩和政策は円安という面でも、総合的には日本経済にとってそれほど良いとは思えません。

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